「日野の排ガス偽装」は「単なる会社の不正」問題ではない! EV化も難しく水素燃料も困難な大型車の「環境対応」はいまだ暗中模索だった (1/2ページ)

この記事をまとめると

■フォルクスワーゲンに続き日野自動車もディーゼルエンジンの排出ガス偽装に手を染めた

■ディーゼルエンジンは出力を上げれば燃費は良くなるが、代わりに排出ガス浄化に苦慮する

■現代社会ではディーゼルエンジンが抱える課題に対する解決策が見出されていない

解決策が見つからないディーゼルエンジン排出ガス問題

 ディーゼルエンジンの排出ガス偽装問題は、2015年に米国でフォルクスワーゲン(VW)が起こし、今回は日本で商用車での偽装が日野自動車で行われた。安全で快適な社会を維持するための規則に違反する重大さや、自己中心的な悪意は、もちろん正されなければならない。だが、この問題は、ディーゼルエンジンが抱える根本の課題解決が、現代社会では困難であることを示しているのではないか。

 ディーゼルエンジンは、ドイツ人のルドルフ・ディーゼルが発明した。しかし当初はなかなか普及しなかった。それでも、ガソリンエンジンの2倍の圧縮比で燃料を燃やし、動力を得ることによる効率の高さ、すなわち燃費のよさで、欧州では小型乗用車で普及し、世界的にも大型トラック/バスなどに広まった。その後、欧州では気候変動対策として上級車種への採用が広がった。

 一方、ディーゼルエンジンの大きな課題は、排出ガス中の有害物質の除去だ。1999年に、当時の石原慎太郎知事がディーゼル排出ガス中の煤を示し、大気汚染防止のため、ディーゼル車NO作戦を東京都ではじめた。これにより、ディーゼル排出ガス浄化は一気に進んだかに見えた。しかし、煤以外にも、窒素酸化物(NOx)の排出が多いのがディーゼルエンジンである。

 乗用車を含め、人体に悪影響を及ぼす排出ガス中の有害物質は、ほかに、一酸化炭素(CO)と、炭化水素(HC)がある。NOxを含めたそれら3つの有害成分を浄化するのが、1970年からはじまった排出ガス浄化の取り組みだ。これに、ディーゼルエンジンは煤を含む粒子状物質(PM)の浄化が加わる。たとえ煤は目に見えなくなったとしても、軽油の不完全燃焼によって生じるPMは、排出され続けている。なおかつ、ディーゼルエンジンと同じように、燃料の筒(シリンダー)内噴射(いわゆる直噴)を用いるガソリンエンジンも、PMの成分が排出されている。

 軽油を燃料に使うディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンのような点火プラグによる強制的着火がないため、PMが出やすく、また圧縮比が高いことによって燃焼温度が上がるので、NOxの排出量も多い傾向に変わりはない。

 そこでNOxの排出を抑えるため、排気循環(EGR)を用いて燃焼温度を下げようとするが、それはつまり、出力を落とすことにつながる。

 結論をいえば、排出ガス浄化をしないで済むなら、ディーゼルエンジンは高圧縮比を活かして効率のよい、すなわち燃費のよい走りができる。だが、排出ガス浄化を強化すればするほど、出力と排出ガス浄化の調整に苦慮するエンジンなのである。

 なおかつ、NOx浄化のため、尿素SCR(選択触媒還元)を使わざるをえないが、原価の上昇と、消費する尿素の補充の手間がかかる。

 競合車との価格競争を含め、戦えるディーゼル商品を無理に世に出そうとすれば、排出ガス偽装に手が伸びるというわけだ。しかもそれが、名のあるVWや日野で起きた。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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