この記事をまとめると
■スティーブ・マックイーンの代表作「ブリット」に登場するマスタングは2台が用意された
■撮影後、1台は映画関係者の手に渡り2018年にオークションで3億7000万円で落札された
■もう1台のマスタングはメキシコに渡りいまも彼の地を走りまわっているかもしれない
映画「ブリット」に登場した世界一有名なマスタング
スティーブ・マックイーンのクルマやバイクにまつわるエピソードは、どれもワクワクするものばかりですが、とりわけ映画「ブリット」に登場したマスタングは永遠に語り継がれるストーリーがつまっています。
このマスタングは、当時のハイグレードモデル「GT390」をベースに映画でのスタント用にカスタムされたマシンで2台が製作されました。ハードなアクションに耐えられるよう、またサンフランシスコの坂道で迫力あるスピードが出せるよう、チューンナップも施されています。例えばキャブの大型化やディストリビューターからイグナイターへの変更、カメラマウントを兼ねた補強材の追加、コニの車高調ダンパーなど数えきれないほど。
さらに、マックイーンは「クルマは小道具でなくキャラクター」というカッコいい信念のもと、マスタングのボディからエンブレムやクロームトリムを取り除き、グリルやホイールをブラックアウト。バックランプさえ外してしまうという徹底的なカスタムを実施。ハイランドグリーンのボディカラーこそカタログ色ですが、撮影前のリハから洗車することなく小傷や凹みなども「キャラクター化」させていったのです。
通称「ブリット・マスタング」の活躍は映画をご覧いただくとして、数々のスタントシーンにはマックイーンのスタントマンで、かつ親友のバド・イーキンスも参加していました。バドは「大脱走」のバイクジャンプで有名になりましたが、「ブリット」でのジャンプシーンもほとんどが彼のドライブによるものだそうです。
ちなみに、バドとマックイーンのなれそめは、バドが経営していたトライアンフ・ディーラーにマックイーンが客として訪れたことが始まりといわれています(バドのお店はほかにもポール・ニューマンやクリント・イーストウッドなど当時のハリウッドスター御用達だったようで、そのためか娘さんも映画業界で活躍しています)。
マックイーンや監督のピーター・イエーツのこだわりによって、すさまじいまでのシーンが撮影され2台のブリット・マスタングは満身創痍、ボロボロのガタガタになったとされています。
そのため、制作会社のワーナー・ブラザースは撮影後に2台を手放しました。1台は社内の脚本家にわたり、その後ニュージャージーのマランカ氏に売り渡され、1974年にはカー雑誌「ロード&トラック」に売り出し広告が載せられました。