ITS分野と水素社会への備えで生きてくる
走行抵抗値の不正により批判を受けたスズキ。燃費を恣意的によく見せるという不正はなかったことで、その問題は市場的には大きく影響しなかったといえる。今後の新型車スケジュールへの影響は少なくないだろうが……。
それはさておき、スズキといえばトヨタとの提携を検討していることが発表されている。まだ具体的な話はないが、世界的にみればかなり近所にある、いずれも織機にルーツをもつ自動車メーカーとしてシンパシーがあるというのは昔から言われているところ。創業家(鈴木修氏は婿養子だが)が強い影響力をもっているという点でも似ている両社の提携というのは、自然な流れという見方もある。
さて、その提携だが、すでにトヨタはダイハツという軽自動車からコンパクトカーまでの開発・生産を行なう企業を完全子会社化している。そのため技術的な提携をする必然性を感じないという意見もあろう。たしかに、そのとおりで、両社のメリットは「規模の拡大が必要な領域」における技術的な共通化といった要素だと考えられる。
具体的には、トヨタはV2V(車々間通信)について、すでにプリウスに「通信利用型レーダークルーズコントロール」を搭載している。これは先行車と通信をすることで加速/減速情報を取り込み、それを追従制御に利用するというもの。
同機能を搭載しているクルマが高速道路で前後に連なり、レーダークルーズコントロールを起動しなければ活用できない機能のため、現時点では恩恵を受ける機会も少ないだろうが、こうした技術についてはメーカーの枠を超えて共通化することで利便性も高まるし、ディファクトスタンダードにもつながる。逆にいえば、インフラとの協調も含めて通信を利用する技術については小さなメーカーが単独で動けるものではない。
同様のことは、水素社会への対応についても言えるだろう。じつはスズキの二輪部門では国内で唯一、水素バイクの実証実験を行なっている。しかし、二輪と四輪では水素充填についての基準が異なるなど普及の前段階として整備すべき要素は数多い。
そうして点についてもモビリティにおける水素社会をリードするトヨタと提携することは、スズキにとって必要不可欠といえる。逆もまた真なりで、ディファクトスタンダードを取る必要のある領域において、スズキの規模を計算できるというのはトヨタの投資判断においても重要であろう。
そうした新しい技術においてディファクトスタンダードを取りたいメーカーと、スタンダードに乗りたいメーカーの利害は一致する。まずは、そうした領域からトヨタとスズキの提携は進んでいくと予想される。