ガソリンとディーゼルのいいとこ取りをした理想のエンジン
今年7月に発売が開始された「マツダ3」。第7世代と呼ばれる次世代商品群のトップバッターとして導入されたモデルだ。その評価は国内外でも高く、すでに海外では様々なアワードを受賞し始めている。
そんななか、世界初となるガソリンの圧縮着火エンジン「スカイアクティブX」搭載モデルがついに発売開始した。当初のスケジュールより伸びた理由は、元々日本/欧州仕様で異なっていたスペックを、欧州で開催された国際試乗会での評価を踏まえて共通スペックに変更すると決断。技術的には難しい話ではないが、届出値が変わるため、認証のやり直しに時間がかかったそうだ。
まずは改めてスカイアクティブXのおさらいをしておきたい。そもそも、ガソリンの圧縮着火エンジンは何が優れるのか? 内燃機関の進化を要約すると、同じ燃料を用いて燃焼させたときに、どれだけ大きな仕事をさせられるか……つまり「熱効率を高めること」だった。では、熱効率を上げるにはどうしたらいいのか? 「圧縮比を上げる」、「比熱比を上げる」の2点である。
マツダはすでにガソリンのスカイアクティブGで世界一の圧縮比14.0を実現済みだが、ここから比熱比を上げるためには燃料に対する空気の比率を大きくする(=リンバーン)ことが有効となる。しかし、これまでの火花点火では燃料が薄いと着火させるのも燃え広がらせるのも難しい。そこで考え出されたのがガソリンを軽油のように圧縮着火させることだった。これなら理論空燃費を遥かに超える薄さ(=スーパーリンバーン)でも燃焼が可能となる。これがガソリンの圧縮着火エンジンが「究極の内燃機関」と呼ばれる所以だ。
これまで世界の自動車メーカーが開発を進めてきたが、実用化レベルには辿りついていなかったが、なぜマツダはそれを可能にしたのか? それは「逆転の発想」だった。
ガソリンの圧縮着火の実用化への高いハードルは「燃焼可能な回転・負荷の狭さ」と「圧縮着火/火花着火の切り替え」である。これを可能にしたのは、「圧縮着火にはスパークプラグは不要」、「燃焼方式の切り替えが難しいなら、その切り替えをその物をなくす」だった。スカイアクティブXは、これまで火花着火の領域で“仕方なく”使っていたスパークプラグを逆に圧縮着火のタイミングのコントロールに使うことで、圧縮着火燃焼可能な回転・負荷を拡大させるとともに、燃焼の切り替えの完全な制御を可能にした。これがマツダ独自の燃焼方式「火花点火制御圧縮着火(SPCCI)」である。
と言っても根本は「点火」と「噴射」というガソリンエンジン本来の機能を研ぎ澄まして機能を統廃合して生まれた技術のため、ハード構成は非常にシンプルである。エンジン本体はガソリンのスカイアクティブGをベースに、「新形状ピストン」、圧縮着火をサポートする「超高圧燃料噴射システム」、より多くの空気を取り入れる「高応答エアサプライ(=機械式コンプレッサー)」、高応答ISG採用の「24Vマイルドハイブリッドシステム(Mハイブリッド)」、異常燃焼を制御するリアルタイム補正や「筒内圧センサー」などがプラスされている程度だ。
HF-VPH型と名付けられたエンジンは、ボア83.5×91.2mmのロングストロークで排気量は1997cc、圧縮比は15.0、最高出力は180馬力/6000rpm、最大トルクは224N・m/3000rpm。Mハイブリッドと呼ばれる24Vマイルドハイブリッドは6.5馬力/61N・mとなっている。以前、公開された欧州仕様と若干スペックが異なる部分もあるが、ここでそれを言っても意味がないので割愛……。