本物のスポーティな走りをもったハッチバックはこれ!
手頃なサイズと実用性、そしてスポーティな走りを兼ね備えたハッチバック車を、ホットハッチと呼ぶ。だがそう分類されるクルマも玉石混淆、正直普通の実用車に毛の生えた程度のクルマも多い。そこで今回は元日本のトップレーシングドライバーであるモータージャーナリストの中谷明彦さんに、本当に走りのいいホットハッチを5台セレクトしてもらった。
1)スズキ・スイフトスポーツ
正直言って僕はスイフトシンパではなかった。初代そして先代のスイフトにはマニュアルトランスミッションのスポーティグレードの設定があって、コンパクトスポーツでは稀少な3ペダルだとして随分人気があったと思う。だが実際に乗ってみると走りに関して何も感心するところがない。サスペンションもエンジンも、いわゆる普通のクルマであり、それ以上でも以下でもない印象だった。だから昨年登場した現行モデルの試乗会に向かった時も大きな期待感は抱いていなかった。
しかし、新型となった現行スイフトスポーツを走らせてみると、あらゆる面で大幅に進化していて驚かされる。厳しい目で見ても納得のできる動力性能、ハンドリング、質感に仕上がっていたのだ。
早速その要因をエンジニアから聞き出した。すると、進化とか改善とか言うレベルでは語れないほどの変更を各所に受けていて、それはもうワークスチューンと言っていいほどに中味が濃いものだった。
たとえばエンジン。先代はM16A型1.6リッター直4の自然吸気(NA)仕様で最高出力は100kW/6900rpm、最大トルク160N・m/4400rpmというスペック。スポーツ性を謳うのは明らかにトルク不足だったろう。
それが新型ではK14C型1.4リッター直4直噴ターボとなり最高出力こそ103kW/5500rpmと微増だが、最大トルクは230N・m/2500〜3500rpmとし大幅に高めることに成功。しかもトルクバンドを拡大して扱いやすい特性としていたのだ。これでパワー不足感は解消され気持ちいい加速が可能となり「スポーツ」を名乗るに相応しい動力性能を与えられたといえた。NA派からは異論も出たそうだが、乗ってから意見を言えといいたい。
トランスミッションは6速のマニュアルでクロスレシオ化され、1〜2速にはトリプルコーン、3速にはダブルコーンのシンクロを採用。シフトレバーストロークを減少させつつ節度のある操作感と剛性感、耐久性をも高めていた。その効果は変速操作を行う度に感じられ、これならマニュアルスポーツを語れると納得できた。
サスペンションはモンロー社製のショックアブソーバーを前後に採用。フロントストラットのケース外径を増し、ダンバー容量も拡大していて優れたダンピング特性を実現。40ミリも拡大した前後トレッドに195/45R17のコンチネンタル・スポーツコンタクトという高級ブランドタイヤを立派に履きこなしている。
さらにさらにスイフトスポーツ専用の5穴ハブと16インチの大型ディスクブレーキをフロントに配置。リヤブレーキもディスクブレーキを採用している。
リヤサスペンションには専用のトーションビームが採用されていたが、これは重要なポイントで剛性が高くスタビライザー特性も備える完璧な乗り味を実現していた。
これほどのアイテムを組み込まれていながら車重は先代より70kgも軽く1040kgという軽量で仕上げられているのだ。その走りは欧州車レベルにあると確信できた。
2)日産ノート e-POWER ニスモ
月別登録台数で1〜2位常連のトヨタ・プリウス/アクアのハイブリッド勢を凌ぐ飛躍をみせた日産ノート。なかでもシリーズ方式ハイブリッドのe-POWERが注目されているが、そのニスモバージョンが素晴らしい。とくにニスモSの走りと完成度の高さには脱帽した。
現行2代目となるノート自体は2012年の登場で、けして最新のモデルではないが、e-POWERを与えられたことで勇躍エコカーの代表格としての地位を獲得している。ニスモはそんなエコカーすら、スポーツ性を語れる優れた商品に仕立て上げることに成功しているわけだ。
その手法はニスモマジックともいえるレースカンパニーだからこそ成せる技で、とくにボディーチューニングが高度に施されている。フロアやサスペンションピックアップなどシャシーを徹底的に強化し、高い質感と正確なハンドリングを可能としている。
また専用にECUでパワーアップされるEVモーターの大トルクを余裕で受け止め、路面へ正確に伝えている。スロットルペダルだけで加速も減速、停止まで可能なワンペダル方式もモード選択可能とし、違和感のない操作性を実現して新しいドライビングスタイルをも提唱している。文句無く素晴らしい仕上がりだった。
ただ一つ、モーター回転数上限の問題で最高速度は富士スピードウェイなどの高速サーキット走行では十分ではない。