今どきのエンジンから「ドッカンターボ」がなくなったワケ

技術の進化もあるが世の中が求める特性も変わった

 いまや死語となっているのが「ドッカンターボ」という表現。ターボエンジンにおいて、回転が上昇していき、あるところでいきなりパワーが増して感じるという味つけを「ドッカン」という言葉で表現した時代があった。エンジンの排気エネルギーを利用して大気圧以上の空気を送り込むというのがターボチャージャーの仕組みだが、大きなパワーを得ようとするほど、ターボチャージャーの羽根のサイズは大きくなる。

 羽根が大きいとおのずと回りづらくなり、過給効果を発揮するまで時間がかかるようになる。そうした一定以上の排気エネルギーにならないと十分に働かないターボチャージャーは、逆にあるポイントを超えると急激にパワーを発揮する。そうした傾向が強いターボエンジンのことを「ドッカンターボ」という言葉は示していたのだ。

 自動車にターボエンジンを採用した初期においては、ターボチャージャーというのは大幅なパワーアップを期待されるデバイスであり、扱いやすさよりもパワーを追求することにプライオリティが置かれていた。また、当時の風潮としても、急激にパワーが盛り上がる「ドッカンターボ」は、ある意味でターボらしさの象徴であり、その刺激をユーザーが求めていたという側面もあった。

 しかし、ターボエンジンが普及するに従って、幅広いトルクバンドによる扱いやすさも求められるようになる。そのためには羽根のサイズを小さくして、低回転から回りやすく(過給がかかりやすく)することが必要だ。そのトレードオフとしてピークパワーは少々犠牲になるが、ターボエンジンが普及していくなかで、そうしたマイルドターボという考え方が出てきたのだ。

 具体的に、日本では1990年代にそうしたトレンドが生まれたと記憶している。日産のR33スカイラインが提案した『リニアチャージコンセプト』は、エンジンの圧縮比を上げ、過給圧を低めにするというレスポンス重視のターボエンジンだった。その後、2000年代では、スズキが軽自動車に「マイルドターボ」と呼ぶ、低速レスポンス重視のセッティングを施した実用ターボエンジンを設定したこともある。

 こうした扱いやすいターボエンジンが一気に増えてきたのはダウンサイジングターボというトレンドが欧州で生まれてからだろう。たとえば大排気量6気筒エンジンを4気筒ターボに置き換えることで、エンジンのロスを減らし、パッケージングの面でもコンパクトなパワートレインの優位性を追求するという考え方に基づくダウンサイジングターボに、「ドッカンターボ」のような刺激は不要となった。

 また、ターボエンジンにレスポンス重視の考え方が取り入れられたのは、ターボチャージャーの排気側・吸気側の羽根をつなぐシャフトを支える軸受け部分に、回り始めがスムースなボールベアリングが使われるようになったこととも時代的には関連している。

 低回転から過給をかけやすいターボチャージャーが登場したことで、リニアチャージのような新しいコンセプトが生まれ、そしてダウンサイジングターボといったトレンドにつながった。いまではオイルで軸受けをするフローティングタイプのレスポンスも向上している。

 こうしたターボチャージャー自身の進化に合わせて、エンジン制御も進化したことで大パワーを求めるエンジンでも幅広い回転域でフラットなトルクを発生できるようになった。さらに最新のエンジンでは、電動スーパーチャージャーにより発進時から過給をかけるようなことも行なわれている。技術の進化により、パワーとレスポンスを両立したことで「ドッカンターボ」は死語になったのだ。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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