世界に出しても通用するデザインを! 新型トヨタ・クラウンのデザイナーがこだわったポイントとは (1/3ページ)

クラウンは社内でも特別な存在で手間や苦労を惜しむ者はいない

 歴史を守ること。そして歴史を変えること。そんな矛盾するふたつの要素を両立させる。15代目となる新型クラウンのデザイン開発は、その高いハードルに挑んだプロジェクトだったと言える。

 プロジェクトチーフデザイナーを務めた國重 健さんは、「クラウンらしい新しさ」の模索が、今回のデザイン開発でもっとも難しいことだったと語る。

「60年以上の歴史を持つクラウンに対して、社内の誰もが思い入れを感じ、ひとりひとりがそれぞれのクラウン観を持っているんです。ですから、単に新しいだけでは『こんなのはクラウンじゃない』という意見が出る。けれど、クラウンがトヨタにとってとても大切な存在だという認識だけは共通しているんです。簡単に答えが見つからないのは、当然と言えば当然なんです」

 エクステリアの開発過程を見ても、その模索がどれだけ難しいものだったかが伝わってくる。外形デザインのまとめ役である福井章人さんはこう振り返る。

「膨大な初期アイディアから、まずはふたつの案が選出されました。A案はいわばクラウンの正常進化型という案。B案はクラウンという車名じゃなくてもいいほどの挑戦的な案です。A案については、クラウンを変えるというテーマから見て、これはないだろうということで却下されました。そしてB案が選ばれたわけですが、水平軸の非常に伸びやかなサイドプロポーションなどは評価できるものの、デザイン的にはまだまだという評価でした。つまり、チャレンジ精神だけで選択されたようなものだったんです」

 一般的なデザイン開発なら、次の中期段階は、初期で選んだ案をさらに磨き上げていく過程となる。だが新型クラウンでは、この段階でもゼロから模索するような状態だったのだ。実際、初期案と最終的なデザインとを見比べると、その違いの大きさに驚かされるが、その飛距離の大きさは、最後の最後まで妥協することなく、「クラウンらしい新しさ」を模索した結果にほかならない。

「行きつく先が見えないなかで進むには、ひとつひとつのことを地道に試すほかありません。不安も苦労も大きいんですが、そこに人や時間をかけることに対してネガティブに思う人は社内にはまったくいませんでした。どれだけクラウンというクルマが大切にされているか。その表れだと思いますし、だからこそできたことだと思います」(國重さん)


新着情報