愛すべき負け組! 売れないのが残念すぎる魅力的なクルマ3選

走りや機能面がいくらよくてもクルマは売れないこともある

ミニバン:ホンダ オデッセイ

 多人数でもっとも快適に乗車できるミニバンは、一般的にはトヨタのヴェルファイア&アルファードとされるが、本当はホンダオデッセイだ。

 車内の広さを競えばヴェルファイア&アルファードが勝るが、シートの座り心地では逆転する。ヴェルファイア&アルファードの3列目は、床と座面の間隔が不足して、足を前方へ投げ出す座り方になってしまう。その点でオデッセイは、3列目の着座位置と座面の角度がちょうど良く、2列目に近い快適な姿勢で座れる。

 さらに2列目も注目される。セパレートタイプはプレミアムクレードルシートと呼ばれ、体をスッポリと包む形状に仕上げた。背もたれを後方に倒すと座面の前側が連動して持ち上がり、自然な着座姿勢を保つ。クレードルとは「ゆりかご」の意味で、文字通り安心感が伴う。

 2017年度(2017年4月から2018年3月)における1カ月の平均登録台数は、アルファードが3747台、ヴェルファイアは3582台で(今はアルファードが多い)、オデッセイは1992台にとどまるが、居住性ではナンバーワンだ。

 オデッセイの敗因は、車内の快適性を外観で表現できていないこと。低床設計を突き詰めたから、十分な室内高を確保した上で、全高を1700mm以下に抑えた。この設計手法は、快適な居住性と優れた走行安定性を両立できて合理的だが、ミニバンに走りを求めるユーザーは少ない。走行安定性は安全に直結する大切な機能だが、ミニバンでは関心が低い。

 ライバルのヴェルファイア&アルファードは、全高を1900mm以上に高めて成功した。現行型でプラットフォームを刷新したから、床と天井を低く抑えることも可能だったが、わざわざ高く設定して立派な外観と周囲を見渡せる乗車感覚を両立させた。同様のことが北米におけるSUVにも当てはまり、正直が通用しにくい車両開発の難しさを物語る。

コンパクトカー:日産キューブ

 日産キューブは発売から9年以上を経過して、緊急自動ブレーキも装着されず、売れ行きは低調だ。1カ月の登録台数は500台前後だから、ノートの5%前後にとどまる。

 しかしキューブは、今でも国内市場に適したコンパクトカーだ。まず内外装が和風をモチーフにデザインされている。今の国産コンパクトカーの多くは、収納設備をあちこちに取り付けた実用重視か、ブラックで仕上げたスポーティ路線になる。そこをキューブでは、インパネなどが曲線を描き、ガラスルーフとSHOJI(障子)シェードを装着すると柔らかい光が車内を満たす。「車内が心地良いから、ゆっくりと走り、時間を掛けて目的地まで向かいたい」と思わせる。

 外観も水平基調ながら角に丸みを付けて、フロントマスクの表情が優しい。周囲の人やクルマを蹴散らす怖い顔をしたクルマが多い中で、キューブだけは優しい。今の殺伐とした日本に求められているのは、キューブのような世界観のクルマだろう。クルマで世の中が変わるとは思わないが、雰囲気をさらに悪くするような形状は避けたい。

 クルマは走るツールだから、速そうに見せることが求められ、外観もシャープで精悍な、いい換えれば怒った顔立ちになった。日本車、輸入車を問わず、いまだに大半のクルマがこの悪い習慣に捕らわれている。この数少ない例外のキューブでは、次期型の開発が凍結されたが、改めてスタートさせる価値のあるクルマだと思う。

セダン:スバル レガシィB4

 かつてのセダンは販売の中心的なカテゴリーだったが、今では脇役になった。一番の原因は各メーカーの開発方法だ。1980年代までは軽自動車のように日本向けのセダンを開発していたが、1989年に消費税の導入と併せて自動車税制が変わると、人気が下降を開始した。税制の改訂で3ナンバー車の不利が撤廃され、3ナンバーサイズのセダンが増えたからだ。

 メーカーの考えは「セダンが豪華な3ナンバー車になれば日本のユーザーは喜び、商品開発では海外向けを国内に流用できて好都合」というものだった。ところが結果は大失敗。3ナンバーサイズの問題ではなく、海外向けのセダンを国内に流用する安易な開発が裏目に出て、セダンは支持を失った。しかも1990年代に入るとミニバンや軽自動車が好調に売れ始め、日本のセダンは人気を失ったまま放置されてきた。

 この海外向けに開発された不人気セダンの中で、意外と良心的に造られているのがスバル レガシィB4だ。全幅が1800mmを超える大柄なボディだが、運転感覚や内外装は、あまり大味ではない。2.5リッターエンジンと4WDの組み合わせで、動力性能や走行安定性も満足できる。乗り心地は18インチタイヤ装着車は中途半端に硬いが、17インチであれば快適だ。

 しかもLサイズセダンだから前後席ともに広く、3〜4名で長距離を移動する用途に適する。このときにはアイサイトバージョン3の運転支援機能が役に立つ。レガシィB4も日本を見限った海外向けのセダンだが、それなりに共感を得やすい。標準仕様の価格が、カーナビ以外の装備を標準装着して302万4000円に収まるのも割安だ。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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