目先の数字を追うのではなく本質を突いたクルマ作りをしている
ミニバン大国、軽自動車王国ともいわれる昨今、ニッポンのスポーツカーは絶滅危惧種のようなイメージさえある。しかし、よくよく考えてみればスポーツカーに分類されるクルマは少なくない。
軽自動車でいえばホンダS660とダイハツ・コペン。コンパクトカーではマツダ・ロードスターが世界的に存在感を示す。さらに水平対向エンジンを積んだトヨタ86/スバルBRZがあり、全日本ラリーなどで活躍するスバルWRXも生き残っている。日産はフェアレディZとGT-Rをラインアップ。厳密にいえば輸入車になるがホンダNSXも存在している。さらにトヨタがスープラを復活させるというのは海外モーターショーで発表されている通りだ。
トヨタといえばGR(ガズーレーシング)の名を冠したスポーツコンバージョン・シリーズも充実させているし、日産がNISMOの名前を付けたスペシャルモデルを用意している。そのほか、スズキのアルトワークスやスイフトスポーツのようなスポーティグレードを含めれば、ニッポンのスポーツカーはけっして消えゆく存在ではないことは明らかだ。
しかし、冒頭で記したようにスポーツカーが絶滅しそうに感じるのは、おそらくそれぞれにライバルが存在しないからだろう。上記のモデルを見ても、同クラスのライバルがいるのは軽自動車の2台くらい。それもターボエンジンのオープン2シーターという共通項があるくらいで、駆動方式の違い(S660はMR、コペンはFF)などを考えると純粋なライバルと市場は捉えていない面もある。
モータースポーツの世界に目をやれば全日本ジムカーナにおいてはフェアレディZとスイフトスポーツが同じクラス(PN-2)に分類されているが、一般ユーザーからすると、この2台をライバルとして比べるというケースが多いとは思えない。せいぜいGT-RとNSXを国産系スーパースポーツとしてメディアが比べるくらいだが、それにしても価格差が倍以上であるし、そもそも多くのユーザーにとっては現実的な選択肢になりえないクルマだ。
数少ないスポーツカーのライバルといえるのは2.0リッターエンジンを積んだロードスターRFと86/BRZの対決くらいであろう。
とはいえ、いずれも走り味の楽しさを目標に掲げたキャラクターで、純粋な速さやスペックで比較する種のスポーツカーではない。
そう、かつてスーパーカーが盛り上がった時代に、カタログスペックの最高速を競ったように、スポーツカーがライバル視されるためには、スペックやタイムアタックの結果といったわかりやすい指標が必要なのだ。「ライバルが3馬力アップしたなら、こちらは5馬力アップだ」といった、リアルワールドでは大きな差にはならないであろう細部まで含めた切磋琢磨が、スポーツカーを盛り上げていった面は否めない。
たとえば国産車であれば、三菱ランサーエボリューション VS. スバル・インプレッサWRXであったり、トヨタ・カローラレビン/スプリンタートレノ VS. ホンダ・シビック(SiR、タイプR)であったりといった対決がスポーツカーの人気を支えていた。いずれも純粋なスポーツカーというよりはスポーティグレードなのは事実だが、そうした手に届きそうなモデルがあってこそ、スポーツカーのピラミッドがすそ野を広げていた。
だが、現在はスポーツカーに速さやスペックを求める時代ではなくなった。絶対的なパフォーマンスではなく、ロードスターが言うところの『人馬一体』感こそがスポーツカーの魅力だと、市場は認識している。そのため、スポーツカーに興味がない人からすると、ライバル不在で盛り下がっているように見えるかもしれない。
しかし、スポーツカー本来の「操る楽しさ」といった部分に各社が注力しているからこそ、目先の数字を追いかけないスポーツカー作りにつながっているともいえる。その意味では、国産スポーツカーはひとつ上のフェイズにステップアップしたといえる。国産スポーツカーは間違いなく進化している、その盛況ぶりが伝わっていないとすれば、それはわれわれ自動車メディアが猛省すべきことなのだ。