なぜクルマは「女子向け」のモデルが成功しないのか?

ラインアップも少ないが成功例はごく一部

 今では当たり前のように使われている「女子力」という言葉。周囲に気配りができるとか、全身の手入れが行き届いているとか、外見や立ち居振る舞いに関してはもちろん、“女子力が高いバッグ”、“女子力を高めてくれる映画”なんて具合に、モノやコトにまで使われていますよね。

 ではクルマはというと、“女子力が高いクルマ”と言われているモデルも、もちろんあります。日本車で代表的なのが、スズキ・ラパンとダイハツ・ミラココア。ラパンは2002年に発売された初代から累計約65万台も売れていて、その9割以上が女性ユーザー、しかも20代〜30代の若い女性たちが6割を占めるというデータがあるほどです。

 フランス語で「ウサギ」を意味する車名にちなんで、クルマの内外装のひょんなところにウサギマークがあしらわれている「隠れラパン」とか、女性用の時計をイメージしたメーターのデザインとか、女性をウキウキさせてくれる仕掛けがたくさんあるところが、ガッツリとオンナ心をつかんでいるんでしょうね。

 ただこの2台は、「女性向け」を意識して企画・開発されたクルマとしては、数少ない成功例。ほかにはどのモデルも、あの手この手で女性にアピールしようとしてもなかなかうまくいかず……。どうやったらもっと女性に売れるのか、長い間それが業界全体の課題になっているというのが現状です。

 それはなぜなのか? その分析にはいろんな要素が絡んでくるので、正確な答えを出すのは難しいのですが……。ここからは個人的な憶測が入ってしまうことをお断りした上で、考えてみようと思います。

 私がいちばん大きな理由だと考えるのは、女性はクルマをファッションアイテムのように軽い気持ちでは選んでいない、ということ。女性がクルマに乗ろうとするとき、最大の恐怖は事故です。だから、そのクルマを本当に自分が乗りこなせるのかどうか、ぶつけたり歩行者を傷つけたりするリスクが低いかどうか、女性なりにシビアな目で見ています。

 最初はデザインや色を見ていいなと思っても、ボディサイズや機能・性能、お金の面でもそのクルマの維持費を払っていけるのかどうか。周囲の人に相談したり、口コミなどの情報収集やシミュレーションをしている女性も多いです。

 だから、メーカーが見た目や装備を女性好みに仕立てて、女性ウケを狙ったCMを流したりカタログを可愛くしたりしても、こういうクルマがあると知ってもらうきっかけにはなるかもしれないけど、最終的に買うかどうかはクルマの実力・中身次第ということになるのだと思います。そう考えると、パワーや排気量や最新技術などを検討してクルマ選びをすることが多い男性と、検討する項目は少し違っても、結局はそんなに変わらない選び方をしているんじゃないでしょうか。

 ただ、女性は好きな同性タレントなど、「あんな風になりたいな」と憧れる女性に関しては、その女性のファッション、ライフスタイル、思考などにものすごく敏感で、共感したり真似したり、影響を受けやすいもの。そのため、憧れの女性が乗っているクルマを知って、ほとんど知識もなく比較検討もせず、同じクルマや似たタイプのクルマを指名買いするという行動に出やすいものです。

 なので、見た目も機能もまったく女性向けではないクルマや、ほとんど一般的な知名度がなかったクルマたちが、突然人気者になるという現象も実際に起こっているんです。

 例えば真っ赤なオペル・ヴィータ。『ビューティフルライフ』というドラマの中で、常盤貴子さんが乗っていた姿がとってもステキでしたよね。その姿に憧れた女性たちを中心に、いきなりヴィータの売り上げが伸びたというのは有名な話です。

 また韓国では、人気女優のイ・ヒョリさんが、まだ正規導入されていなかったころの日産キューブを気に入って、個人輸入して乗っていたというのがファンの間で話題となり、次第に若者たちを中心に大ブレイク。2012年当時、もっとも売れた日本車は日産キューブだったんですよ〜。他メーカーからキューブのソックリさんカーまで登場したほどでした。

 このエピソードから考えられるのは、女性はクルマそのものに憧れるのではなく、「好きな女性が乗っているクルマ」に憧れるのだということ。自分がこんな女性になりたいなと思ったときに、その女性がどんなクルマとともに過ごしているのかが、女性の心をつかむカギと言えそうですね。でもきっと男性の中にも、そういう思考でクルマ選びをする人っていますよね? 俳優やスポーツ選手の○○さんが乗っているクルマ、なんて記事はけっこう食いつきがいいみたいですからね。

 さて、もうひとつ考えられるのは、本当に自分だけの意思でクルマを買っている女性って、どのぐらいいるの? ということ。女性が自由にクルマ選びができる時期って、じつはとっても短いと思うのです。免許を取っても実家で暮らしていれば親のクルマがあるし、買うなら家族の意見も聞かなきゃならない。好きなクルマが買えるのは、親元を離れて暮らし始めてから結婚するまでの間くらいですよね。

 でも彼氏ができたら彼の意見も聞くだろうし、結婚したらもちろんご主人がクルマ選びをするだろうし。よく考えたら、ほんっとに女性が自分ひとりでクルマを選ぶなんてこと、なかなかできないんですよね。

 女性が見た目で「あのクルマがいい」と言ったとしても、そこに外野の男性たちがあーだこーだと意見してきて、結局はそれがミックスされた結論になるわけですから。そりゃ、女性向けだの女子力だのと謳ったクルマが売れるとは限らないですよね。

 というわけで、いくらデザインをかわいくしても、きれいな色を揃えても、それだけで女性にクルマは売れません。男性にも女性にも響くようなしっかり中身のともなったクルマを、できればなるべく安く(笑)、これからもたくさん開発してほしいと願います!


まるも亜希子 MARUMO AKIKO

カーライフ・ジャーナリスト/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
MINIクロスオーバー/スズキ・ジムニー
趣味
サプライズ、読書、ホームパーティ、神社仏閣めぐり
好きな有名人
松田聖子、原田マハ、チョコレートプラネット

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