思い切ったコンセプト変更で販売台数が3倍になったクルマも!
最近は国内向けに開発されていた車種が、海外向けに切り換わることが多い。そのためにフルモデルチェンジしたことで、売れ行きを下げる車種が目立つ。しかし少数ではあるが、フルモデルチェンジで売れ行きを持ち直すクルマも見受けられる。それを考えてみたい。
1)ホンダ・オデッセイ
ホンダ初代オデッセイは1994年に、今に通じるミニバンの先駆けとして発売された。1999年登場の2代目を含めて、全高は1650mm前後であった。1996年に初代モデルを発売したホンダ・ステップワゴンに比べると100〜150mmは背が低く、後席ドアはスライドドアではなかったが、人気を相応に高めた。
ところが2003年に発売された3代目オデッセイは、低床設計を突き詰めて、2WDの全高を1550mmまで下げている。当時はすでにスライドドアを備えた5ナンバー車のステップワゴンが好調に売れていたから、オデッセイは背の低さで個性化した。天井が低いために立体駐車場を使いやすく、低重心化だからサーキットを走れるほど走行安定性も優れている。
2008年に発売された4代目オデッセイも同じ考え方で開発したが、3代目と併せてユーザーの理解を得られず売れ行きが低迷した。2012年の1カ月当たりの売れ行きは、500台前後まで落ち込んでいる。
そこで2013年にフルモデルチェンジされた5代目の現行型は、フラットフロア構造のハイルーフミニバンに仕上げ、後席側のドアはスライド式にした。
低床設計で全高は1700mm以下だが、床面構造はステップワゴンなどと同じだから、3列目に座っても燃料タンクの張り出しによって膝が持ち上がる姿勢にならない。3列目の居住性はヴェルファイア&アルファードよりも快適で、室内高も相応に確保した。
それでも全高が1700mmを下まわると、外観は背が低くワゴン風に見えてしまう。売れ行きが好調とはいえないが、ハイブリッドも加えたから、1カ月平均で1700台程度は販売されている。先代型の4代目に比べると、3倍以上の売れ行きとなった。往年の人気をある程度は取り戻すことができた。
2)スズキ・スペーシア
ダイハツは全高がムーヴ以上に高い軽自動車として、2003年に初代タントを発売して相応の人気を得た。そこでライバルメーカーのスズキは、2008年1月にパレットを発売している。全高が1700mmを上まわる背の高いタントのライバル車で、後席側のドアはスライド式だ。
しかしパレットは天井の高さを2007年12月に発売された2代目タントよりも少し低く抑えたから、売れ行きが低調だった。そして2011年12月には、初代ホンダN-BOXが発売されて絶好調に売れたから、パレットはさらに苦戦を強いられた。
そこでパレットは2013年にスペーシアに刷新したが、やはり天井が低めで売れ行きが伸び悩んだ。1カ月の平均販売台数は6600台ほどだったが、ライバル2車に比べると少ない。スズキは「背を低く、ボディを軽く抑えて走行性能や実用燃費を向上させても、背の高い軽自動車を買う人達には理解されない」と気付いた。
そこで2017年12月に発売された2代目スペーシアでは、天井を50mm持ち上げて、背の高さを強調。室内空間も大幅に広がり、後席は簡単に畳めるように工夫した。エアロパーツを装着したスペーシアカスタムの外観は、N-BOXカスタムに似ていて没個性だが、標準ボディは相応にユニークで質感も満足できる。安全装備も進化させ、今のところは1カ月に1万4000台ほど売れている。売れ筋路線に迎合して、以前の走りの軽快感は薄れたが、販売台数は急増した。
3)トヨタ・ハリアー
初代と2代目ハリアーは、レクサスRXと同じクルマだった。しかし2005年に日本国内でもレクサスが開業したのを受けて、2013年に発売された3代目ハリアーは、3代目レクサスRXとは異なる日本向けのSUVに発展している。
そのために3代目ハリアーは、内外装の質がRX以上に高い。各部を艶っぽく作り込み、日本のユーザーが抱く高級感を訴求した。SUVのクラウンという雰囲気に仕上げている。
先代ハリアーの売れ行きは、2012年の実績で見ると1カ月に700〜800台だったが、現行型は2017年に5倍以上の4500台前後は売れている。ハリアーは日本のユーザーのために開発することで、好調な売れ行きを取り戻した。海外指向を強めて販売台数を下げたほかの車種にも、同様の可能性が残されている。不人気車でも、国内への対応を見直すことで、活路が開けることは十分に考えられる。