日本では使いきれない超パフォーマンスが生むゆとりの走り
試乗車:アウディRS5(1257万円)
VWグループに属するドイツのアウディはベンツ、BMWと「ジャーマン3」と呼ばれるプレミアムブランドの1つである。
アウディのラインアップは基本となるのが乗用車系のAシリーズとSUV系のQシリーズで、AシリーズもQシリーズもアルファベットの後に続く数字が3までは、基本構造をVWと共用するエンジン横置きのFF車となる。数字が4以上のモデルは世界的にも数少ない、スバル車にも通じるエンジン縦置きのFFと4WDというアウディ独自の基本構造を採用する。
数字が4以上のAシリーズは偶数のA4がベンツCクラスやBMW3シリーズ、A6がベンツEクラスやBMW5シリーズ、A8がベンツSクラスやBMW7シリーズ相当となる、オーソドックスな4ドアセダンとステーションワゴンをラインアップする。
Aシリーズで数字が奇数になるA4ベースのA5とA6ベースのA7は、スペシャリティというかファッショナブルというか、ちょっと変わったボディタイプとなるプレミアムなシリーズだ(BMWは奇数がオーソドックスなラインで、偶数がスペシャリティなラインなのと同じ話だ)。A5は2ドアクーペ、オープンのカブリオレ、5ドアクーペ的なスポーツバック、A7はスポーツバックを持つ。
そしてアウディはスーパーカーのR8を頂点とする、SとRSというスタンダードなモデルに対し一層高いプレミアム性とスポーツ性を持つラインも持つ。
RSはフラッグシップで、他ブランドで例えるならベンツのAMG、BMWのM、トヨタのGRMN、スバル系のSTIのSシリーズにあたるポジション。
Sシリーズは、トヨタとSTIで例えるならエンジンも別のものとなるのでトヨタのGRMNとGR、STIのSシリーズとtsの中間といった位置付けだろうか。
アウディそのものに関する前置きが長くなったが、RS5はベンツのAMG C63クーペ、BMW M4、日本車ならレクサスRC Fがライバルとなる、ボディサイズだけでいえばミドルクラスで、頭上空間は狭いものの、それを除けばちゃんと人が乗れるリヤシートと広いラゲッジスペースを持つ「ミドルスーパースポーツフル4シータークーペ」というポジションにある。
RS5は高いプレミアム性とスペシャル感を合わせ持つ内外装はもちろん、名前を挙げたライバル車の中で唯一の4WDに先代のRS5の4.2リッターV8 NAと同等の最高出力と約17.0kgmも太い最大トルクを持つ2.9リッターV6バイターボ(最高出力450馬力&最大トルク61.1kg-m、バイターボのバイは英語でツインと同じ意味)+8速ATというパワートレインを組み合わせる。
参考までにパフォーマンスは0-100km/h加速3.9秒、最高速280km/h(スピードリミッター作動)と、とくに0-100km/h加速は日産GT-Rの初期モデルに近いほどの速さだ。こういった超高性能車は公道で乗っていると、余裕を楽しむのが主になる。
具体的には、アクセルを深く踏むとちょっと気持ち悪くなるくらいのGと、V6エンジンながらポルシェの水平対向6気筒ターボを思わせるようなサウンドを伴いながら、あっという間に制限速度に達するスムースかつ官能的な加速(加速のスムースさには8速ATも陰で貢献しているのだろう)を示す。
乗り心地も、一番スポーティな走行モードとなるダイナミックを選ぶとさすがに日本の公道ではスピードレンジも含め硬さを感じるものの、コンフォートを選べば275/30R20という超偏平タイヤながら路面の凹凸を完璧に吸収しており、そこに静粛性の高さ、動力性能や4WDを含めた全体的な余裕が加わり「とにかく快適」といった具合だ。
RS5は制限速度が最高で100km/hという日本では、当然ながら必要性は非常に薄い。しかしドイツのような200km/hオーバーでクルマを走らせられる道路環境があるところで、各地にお店を持っていて、短時間で飛び回れなければならないエグゼクティブにとっては、RS5は4WDも生かし「速い、快適、安全」という三拍子が揃った、飛行機や高速鉄道よりも便利な”全天候型ビジネスエキスプレス”として存在意義や存在価値の大きいアイテムなのだと思う(考えてみるとかつてのポルシェ928や現行日産GT-Rもそういった側面も持つクルマだ)。
また日本でもドイツのようなスピードは必要ないにせよ、近い使い方をする人にはオシャレで十分なスペースがあるスタンダードなA5やA5とRS5に間のポジションとなるS5はなかなか面白いクルマなのではないだろうか。