燃料電池車のトヨタMIRAIでスキーに行けるのか? フェルディナンド・ヤマグチが挑戦
走りも価格も問題なし! あとは水素ステーションの充実だけ
次世代エネルギー車の担い手として、鳴り物入りで登場した燃料電池自動車。2014年にトヨタからMIRAIが発売された当初は、マスコミから散々持て囃され、テレビはもちろん、新聞や雑誌にも大きく取り上げられたものですが、最近はとんと話を聞かなくなりました。
国内では2016年にホンダから出たクラリティ フューエルセル以外に追従者が現れず(しかも販売はせずにリースのみ)、同じタイミングで始めるはずだった日産はいつのまにやらフェードアウト。
2018年3月23日に日産本社で開かれた記者説明会では、商品戦略担当のフィリップ・クランCPLO(チーフ・プランニング・オフィサー)が、プラグインハイブリッド車や燃料電池自動車は、日産の「ポートフォリオの一貫ではあるがメリットが大きくない。我々の電動化戦略の中心ではない」、と高らかに宣言するなど、その企業姿勢を明確にされました。「政府の方針だから水素ステーションの設置には協力するけどさ、当分クルマは作らないよ」、という訳です。外人さんは言うことがハッキリしていてすごいですね。
高圧の水素タンクを備えた燃料電池自動車の開発には莫大な資金が必要であり、また製造にも多大なコストがかかります。MIRAIの販売価格は723万6000円。決してお安くない値段ですが、この価格であれだけの内容のクルマを作れるはずがありません。当面はトヨタにとり、「売れば売るほど損をする」状態が続きます。それもこれも、「100年先を考えた」同社の戦略があればこその話なのです。
燃料電池自動車を購入する際、一番のネックとなるのは何でしょう。高価格も理由の一つでしょうが、国や地方自治体から手厚い補助を受けられるので(地方によっては300万円!)、実際は高い仕様のプリウス程度の価格で買うことが可能です。プリウス同様、環境に対する意識の高い人が買うのでしょうから、じつは価格はそれほど大きな問題ではないのかも知れません。
次に問題となるのが水素を充填する水素ステーションの少なさです。ご存じかどうか。日本は世界に冠たる水素ステーション王国なのですが、それでも現状は100か所足らず。ステーション不在の県も少なくありません。しかもその営業姿勢が何ともイケていない。
通常営業は平日のみ午前9時から午後5時まで、土曜は半ドンで日曜日は休みと、まるで昔の区役所のような不便さです(今の役所はもっとフレキシブルです)。堅気にお勤めの方は、いったいいつ水素を入れに行けば良いのか? いちいち有給を取ってステーションに行けということなのか。遠出をするときはどうすれば良いのか。こうしてみると、燃料電池自動車の問題は、ニアリーイコールで水素ステーションの問題であることが分かります。
わかりますって、したり顔で結論付けても仕方がないので、実際にMIRAIに乗って遠出をしてみることにしました。せっかく遠出をするなら、最後の雪を求めてスキーに行きましょう。ということで、長野県は小県郡長和町の、ブランシュたかやまスキーリゾートにスタッドレスタイヤを履いたMIRAIで出かけきました。
ブランシュたかやまは、雪がそれほど多くない山に、降雪機でムリヤリ雪を降らせてしまう、いわゆるひとつの人工スキー場です。私は八方か奥志賀に滑りに行くことが多いのですが、これらのスキー場へ向かう道の途中には水素ステーションが存在せず、MIRAIで往復することは物理的に不可能です。苦肉の策としてこのスキー場を選んだ、という訳です。
トヨタが標榜するMIRAIの走行可能距離は、“JC08モード走行パターンによるトヨタの測定値”で650km。これを鵜呑みにしてガス欠ならぬ水素欠になったら目も当てられませんから、満タン状態で東京を出たら甲府昭和でいったん高速を下りて、甲府のステーションで水素を充填し、再び高速に乗り、諏訪南でまた高速を下りて諏訪湖の近くに宿泊。そこをベースに土日はブランシュたかやままで往復し(日曜はステーションが休業ですから)月曜朝イチに高速に飛び乗って、甲府のステーションが開くのを待って水素を充填し、東京へ帰る、という算段です。
甲府のステーションはインターから5キロほどの距離があり、便利とは言い難いのですが、背に腹は代えられません。途中で止まってしまったら、あとはキャリアカーを呼ぶしか道は無いのですからね。
しかしステーションの問題さえ解決してくれれば、MIRAIは快適そのものです。
155馬力相当のモーターパワーによる加速は強力であり、街中のシグナルグランプリで遅れを取ることはなく、高速の合流も余裕です。高速走行も大得意で、1850kgとソコソコの重量が有りますから、飛ばしてもどっしり安定しています。
驚いたのは雪道での走りが意外に良かったことです。世界最強の呼び声も高い高性能のスタッドレスが装着されていたことも有りましょうが、ほかのクルマが難儀しているところを尻目に、凍結した道をグイグイ上って行くMIRAIは、とても頼もしく感じたものです。
返す返すも惜しいのはステーションの少なさですね。
経産省の皆様方に於かれましては、たかだか100か所のステーションでドヤ顔などなさらないで、(http://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180323004/20180323004.html)水素ステーションの増設に邁進して頂きたいと存じます。