「迷ったらカムリ」という究極の安全パイ的な扱い
ロサンゼルス、ニューヨーク、シカゴ、ダラス、マイアミ……、全米どこでもトヨタ・カムリをよく見かける。それはそうだ。アメリカ国内で年間40万台近く販売されている、超人気車なのだから。
ミニバンが主流の日本とは違い、アメリカではセダンがクルマの王道だ。ピックアップトラックやSUVもアメリカの代表的なクルマだが、一家で複数所有が当たり前のため、一家に一台はセダンがある場合が多い。
売れ筋のセダンは、大きく4モデルある。Cセグメントではカローラとシビック、それよりひと回り大きいDセグメントではカムリとアコードとなっており、セダンはトヨタとホンダにとってのドル箱だ。
これら4モデルが売れる理由は、
① 品質が高くて壊れにくい
② ディーラーのアフターサービスが良い
③ リセールバリュー(下取り価格)が高い
という3点だ。
そのうえでカムリが選ばれる理由は、「何を買おうか迷ったら、カムリにしておけば間違いない」という、カムリ神話があるからだ。換言すれば、カムリはオールマイティなクルマで「つぶしがきく」と、アメリカ人は考えている。カムリはアメリカ人にとって、究極の安全パイなのだ。
アメリカでもSUVが台頭するなかカムリも攻めの姿勢に
そんなカムリが昨年、大きく変わった。2017年1月、北米国際自動車ショー(デトロイトモーターショー)で、豊田章男社長が直々に新型カムリを世界初公開すると、会場内からどよめきが起こった。
そこにあったのは、安全パイのカムリとは似ても似つかぬ、欧州スポーツセダンを連想させるスタイリッシュなボディスタイル。担当したデザイナーは「これまでのカムリとは違う、アグレッシブさ」を強調した。
壇上には、アメリカ最大級のモータースポーツ・NASCARのトヨタトップチーム、ジョーギブスレーシングからカイル・ブッシュとデニー・ハムリンも登場し、新型カムリ誕生に華を添えた。
アメリカでのトヨタ販売を統括するTMS(トヨタ・モーター・セールス)の幹部は「近年、アメリカではセダンからSUVやクロスオーバーへ市場が徐々にシフトし始めており、セダンのメインストリーム(主流)であるカムリは、ユーザーに対して守りではなく、攻めの姿勢を示すべき時期だと判断した」と語った。
その数カ月後、筆者は日米両国で新型カムリを試乗した。新型の車体「TNGA」とカムリがベストマッチしていることを実感した。FF(前輪駆動車)とは思えぬニュートラルなハンドリングで、アメリカのフリーウエイを駆け抜けていった。ボディやインテリアのデザイン刷新のみならず、走りの質感でも欧州スポーティセダンと同格と呼べるほどの進化を遂げていた。
時代の変化に合わせて、スポーティマインドを満載した新型カムリ。アメリカでの人気は衰えることはない。