この記事をまとめると
■パッカー車はごみの収集を行うための車両だ
■ごみ収集の現場では人が圧縮装置に挟まれるなどの事故が発生している
■事故を防ぐために開発されたのがAIを使った安全支援システムだ
人がいる際は圧縮装置が自動停止!
厚生労働省が運営するWEBサイト「職場あんぜんサイト」の労働災害事例に「粉砕済み段ボールを圧縮式ごみ収集車に積み込む作業中に、投入口内部で回転している板に全身をはさまれた」死亡事故が掲載されている。一般に、ごみ収集車、塵芥車と呼ばれているパッカー車で発生した事故だ。この車両は、街なかでもごみの収集に活躍しているから、比較的身近な存在だといってよい。
塵芥車は車両後部にごみなどを投入し、機械的に圧縮して荷室に押し込む構造になっている。もちろん、一般の人が車両操作をすることはないし、緊急停止装置などの安全装備もついている。しかし、圧縮装置などに挟まれるなどする事故はあとを絶たず、先の事例のように命にかかわることもあるのだ。
パッカー車のイメージ画像はこちら
そこで開発されたのが、AIを使った最新の安全支援システムだ。塵芥車の事故は、車両後部のごみ投入口で発生する。2名で作業をしている場合、ひとりがごみ投入作業を車両後部で行い、もうひとりは運転席にいて車両の運転業務を行うのが一般的だ。すなわち、運転者には後部作業者の動きがわからない。ゆえに、巻き込み事故が起きてもすぐに対処ができないのである。
そこで、車両後部にカメラを装着し、後部の様子を運転車にもわかるようにするシステムがあるが、これだけでは運転席のモニターを見ていなかった場合、事故を防止しきれない。本システムはあらかじめ車両後部に危険エリアを設定し、そのなかに人が進入しているときには、圧縮装置が自動停止するといった設定が可能なのだ。
大きな特徴は、AIの人検知能力の高さ。ごみなどの投入物で手や腕が隠れていたり、帽子をかぶったりしていても、AIが人であることを推測することができる。もちろん、フードを被っていたりレインコートを着ていたりしていても同様だ。また、夜などといった明かりの少ない状態でも、高性能カメラによって人を認識することが可能。逆に、投入物に色がついていたり丸みのある形状であったりしても、人と誤認することが少ないので、誤検知による作業性の低下がほとんど発生しない。

システムの仕組みは極めてシンプルだ。高性能カメラとAI画像認識技術で、設定された危険エリアに人の進入がないかを監視。危険エリアに人全体だけではなく、手、頭、足などの体の一部が進入しても、それを検知して圧縮装置を停止するというものだ。当然、作業員以外の一般人であっても、危険エリアに入れば同様に装置は停止する。
さらに、危険を察知したときの情報は記録され、IoTシステムで管理者にも情報が送られる。この情報には日時・位置なども含まれるため、データとして蓄積することで安全向上につなげることができるのだ。こういったシステムは、作業の安全や作業者の労働環境改善に資するだけのものではない。現在は現場作業の担い手が不足しており、ゴミの収集もワンマン化の進む可能性がないとはいえない。
このようなシステムが開発・進化することで、そういった問題解決の一助になることが期待されている。