この記事をまとめると
■1967年にポルシェとVWは自動変速システム「スポルトマチック」を共同開発した
■「スポルトマチック」は自動クラッチ操作に手動の変速操作を組み合わせたATだった
■スポルトマチック車の乗車感覚は普通のマニュアルシフト車とほとんど変わらない
911には昔からATが用意されていた
多くのAT限定免許の方々は、MTオンリー傾向なちょい古スポーツカーの運転はあきらめていらっしゃるかもしれません。しかし、絶望するのはちと早い。というのも、ポルシェ911に2ペダル、AT免許で乗りまわせるモデルがあるのです。といっても、ティプトロニックやPDKではありません。その名もスポルトマチックは、VWと共同開発したセミオートマともいえる機構で、ATながらもシフトチェンジはMTさながら。911らしいスポーティテイストあふれるものなのです。
ポルシェ911のATといえば、1990年にカレラ2(964)に搭載されたティプトロニックや、2008年から採用されたPDK(ポルシェ・ドッペル・クップルング=デュアルクラッチ)が有名です。いずれも2ペダル操作が可能でAT限定免許で乗れるとして、人気を博しているもの。ですが、これらのはるか以前、1967年にはすでに2ペダルで乗れるスポルトマチックが存在していました。初代911の発売が1963年のことですから、ごく初期の頃といっても差し支えないでしょう。
ポルシェ911(901型)のフロントスタイリング画像はこちら
これは、MTと同様のシフトレバーを操作してギヤチェンジを行うものの、クラッチ操作は機械任せという便利モノ。もともとは、VWのエンジニアがアイディアを生み出し、これをポルシェがトルクコンバーターと組み合わせたとされています。
具体的な操作方法は、シフトチェンジをする際、レバーに軽く触れるとセンサーがそれを検知してクラッチが切れ、レバーから手を離すとクラッチがつながります。つまり、ATといえども、ギヤのアップダウンにシフトレバーを動かすわけですから、気分はマニュアルシフトに等しいもの。
ポルシェ911(901型)のスポルトマチック車のシフトノブ画像はこちら
ただし、シフトノブにずっと触れているとクラッチが切れっぱなしになるため、そういうクセのあるドライバーはご用心。
ちなみに、同時期のVWビートルにはノブにスイッチがついており、手を触れるのではなくこれを押しながらシフトチェンジするタイプもありました。
フォルクスワーゲン・ビートル(初代)のスポルトマチック車のインパネまわり画像はこちら
ベースとなっているのは4速MT(1967-75)もしくは3速MT(1976-77)ですが、これらは駐車時に使用するパーキングギヤというのが装備されており、普通のギヤボックスとはいくらか違うようです。そのため、シフトノブに刻まれたパターンのなかにPの文字が読み取れるはず。
なお、911マニアがたまに「スポルトマチック車はエンジンが違う」ということがありますが、これはトルクコンバーターなどのアタッチメントラグの有無により異なったパーツナンバーが割り振られているだけで、性能差はまったくありません。
ポルシェ911(901型)のエンジンルーム画像はこちら
また、作られた年代どおり難しい仕組みではなく、シフトレバーの根元についた金属の接点がクラッチを切るスイッチとなっているだけ。トルクコンバーターもさほど凝ったものではないらしく、故障の頻度は極めて低いという識者もいます。
なお、運転したことのある専門家にいわせると「独特のタイムラグがあるものの、慣れてしまえば普通のマニュアル911とさほど変わらない」とか。
ポルシェ911タルガ(901型)のリヤまわり画像はこちら
こうなると、AT限定免許でなくとも乗ってみたくなるかもしれませんが、中古車市場では意外とレアなモデル。しかもスポルトマチックをあと付けしようにも、前述のとおりエンジンの取り付けラグがないため厳しそう。どうやら、いまとなっては幻の911みたいな存在かもしれませんね。