この記事をまとめると
■かつてフォルクスワーゲンはスーパースポーツに挑戦したことがある
■12気筒をミッドシップ搭載したコンセプトカー「W12」を東京モーターショーで発表
■W12はクーペに続いてオープン仕様も披露されたが市販化されることはなかった
フォルクスワーゲンが作ったスーパーカー
VWの魅力といえば、まずは質実剛健な作りと経済性の高さといったところにあるのではないだろうか。そのもっとも極端な例といえるのが、2002年の「1L」モデルに始まり、2013年には250台という少数ながら、プロダクションモデルの「XL1」として結実するに至った、超省燃費型(100kmを約0.9リッターのディーゼル燃料で走行できるPHEVだった)のコンパクトカーであり、またそのコンセプトは現在あるモデル達が見事にそれを証明している。
だが、VWの長い歴史のなかには、スーパースポーツへの挑戦を試みた時代もあった。しかもそのワールドプレミア(世界初公開)の場は、東京モーターショーであったのだから、鮮明な記憶としてその存在が残っている人も多いに違いない。VW「W12」。それが今回の主題である。
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ユニークな設計のW型エンジンが、最初に搭載されたのがブガッティではないことは、スーパースポーツの歴史に詳しい人ならば誰もが知るところだろう。いや、正確にはプロダクションモデルとして実際に販売された最初のW型エンジン搭載車は、ブガッティのヴェイロンにほかならないが、人々を熱狂させたコンセプトカーにまでさかのぼると、それはVWが先ということになる。
じっさいに東京モーターショーのVWブースに、W12が展示されたのは1997年のこと。1998年にブガッティはVWグループに属し、新型車の開発を再開するが、彼らの初作となったのはW型18気筒エンジンをミッドに搭載するコンセプトカー、「EB18/3シロン」。引き続いて同様のメカニズムを採用した「EB18/4ヴェイロン」を発表するが、それと同じ場でVWのW12コンセプトはデビューを飾っているのだ。
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ちなみにブガッティが開発したW型18気筒エンジンは排気量が6.3リッターで最高出力は555馬力。一方でVWのW型12気筒エンジンは、5.6リッターの排気量から420馬力の最高出力を発揮していた。これに組み合わされるミッションは6速MT。駆動方式は4WDだった。
VW W12が多くの見る者の目を捉えたのは、イタルデザインによる流麗なボディデザインにもあった。全長で4400mm、全幅で1920mm、全高で1100mmというスリーサイズは、現在のスーパースポーツと比較しても非常にコンパクトなもので、2530mmのホイールベースからは、取りまわしのよさも十分に想像できる。このあたりのノウハウは、さすがはVWの作といった印象だ。
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W12は、翌1998年のジュネーブショーでは、そのオープン仕様を初公開。ボディカラーはクーペのイエローから、鮮やかなレッドへと変化し、さらにメカニズム面では駆動方式がRWDとされたことが大きな特徴である。
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ミッドのエンジンには変化はなく、5.6リッターのW型12気筒エンジンから420馬力の最高出力を得たことも同様。だが、この段階に至って、それを見る多くの者は、もしかしたらこのW12がVWによって市販されるのではないかという期待を抱いたことも事実だった。それほどまでにW12は完成度の高いコンセプトカーに仕上げられていたのだ。
だが、VWからは、そのような発表が行われることはなかった。久々にW12のネーミングが世界に轟いたのは2001年、「W12ナルド」と呼ばれるテスト用車両が、東京モーターショーで発表されたときだっただろうか。VWは実際にオレンジ色のこのナルドを、南イタリアの高速走行テスト場でお馴染みのナルド・リンクにもち込み、最高速度357km/h、0-100km/h加速で3.5秒など、12の記録を樹立した。
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ちなみにこのW12ナルドに搭載されたエンジンは、6リッター仕様の600馬力仕様。24時間の連続走行距離記録では、それまでの記録を12km上まわる7085.7kmを達成。その動力性能とともに耐久性能をも広く世界にアピールした。その平均速度は295.24km/hというから、改めて驚く。