この記事をまとめると
■関西の路線バスの左後輪にはカバーが装備されている
■巻き込み事故防止のための装備として左側の後輪にのみ採用
■乗用車の分野でも燃費向上を目的として装備されていたケースがある
関西のバスには特殊な装備が!?
関西地域を走る路線バスの後輪側に、覆いが取り付けられているという。理由は、左折の際、歩行者や自転車など他の交通の巻き込み事故を防止するためとのことだ。したがって、覆いがあるのはじつは左側のみである。
路線バスでは、運転者が指差し確認を行い、安全を確保したうえで発進したり、右左折をしたりという手間を惜しむことなく、安全運行に努めている。さらに安全追求をより厳重にしたのが、後輪の覆いの取り付けだろう。
かつて、乗用車でも後輪のホイールアーチのところに覆いを付けたことがある。米国GMのキャデラックや、フランスのシトロエンDSなどが知られるところだ。これらはいずれも、空気抵抗の低減を意識した装備で、1950年代のキャデラックでは、後輪の覆いとともに、垂直に立ち上がったテールフィンも空力を意識した特徴的な造形のひとつだった。
1950年代のシトロエンDSは、技術革新を特徴としたシトロエンの象徴的な上級車種で、空力を意識した外観はもちろん、大柄なクルマでの採用がまだ限られていた前輪駆動や、油圧を使ったハイドロ・ニューマチック・サスペンションなど、最新技術を盛り込んだ1台であった。
19世紀末のガソリンエンジン車発明から60~70年経った自動車業界は、第二次世界大戦を挟んで、高性能化とともに、いかに性能を見た目に示すかにも熱心だったといえる。
空力性能を見せる造形としての後輪の覆いは、日本では1999年のホンダ・インサイトでも用いられた。ふたり乗りのクーペは、ホンダ初のハイブリッド車として燃費性能を徹底追求し、空気抵抗係数(Cd)値0.25という抜群の数値を達成した。
それら一連のホイールハウスの覆いは、後輪側のみで前輪側には取り付けられていない。理由は、前輪は操舵のためタイヤが車体の外側へはみ出すからだ。
ほかに、回転するタイヤまわりの空気の流れを整える目的で、円盤状の平らなホイールカバーを付ける発想もあった。ただこれは、ブレーキ冷却と相反する手法でもあった。
いずれの事例も、タイヤを交換するには覆いを外す手間が加わる。したがって、すべてのクルマが採り入れることはなく、また時代とともに消えていく運命にもあった。
空力効果では、鉄道においても、新幹線車両は車輪部分が覆われている。
路線バスの左折時における安全確保という目的において、後輪の覆いはトラック/バスともに大型車全般に適応が広がってもいいかもしれない。ただ、始業点検での手間(カバーの脱着など)は増えることになり、それによって手抜きの点検となってしまっては本末転倒だ。
とはいえ、運転者不足が生じ、新規の運転者が集まるよう運転が楽な商用車が現れる今日、運転操作としての安全確認は求められるとしても、車両側でも、安全をより前向きにする巻き込み防止のタイヤカバーという発想を、改めて検証してみるのも価値あることではないか。あわせて、長距離移動での空気抵抗も減るとなれば、燃費低減につながりなおよい。