この記事をまとめると
■純粋な制動力だけならドラムブレーキのほうがディスクブレーキよりも優れている
■高速走行時や長時間使用時の熱に対する耐性や安定性などの総合的性能においてはディスクブレーキが優れる
■クルマの進化は必ずしも数値だけでは測れないことをディスクブレーキは教えてくれる
ドラムブレーキが標準のところにディスクブレーキが登場
いまやクルマのブレーキといえばディスクブレーキだ。「昔」はドラムブレーキが標準で、ディスクブレーキといえばスポーツカーに搭載された最新ブレーキだという認識だった方も多いと思う。だが、ご存じだろうか。当初はドラムブレーキのほうが制動性能が高かったということを……。それなのになぜディスクブレーキにとって代わられたのか? 本記事ではその理由を紐解いていこうと思う。
ドラムブレーキとディスクブレーキの基本的な違い
まず、両者の構造の違いを理解する必要がある。ドラムブレーキは、回転するドラム(円筒)の内側にライニングを押し付けて制動力を得る仕組みである。一方、ディスクブレーキは、回転するディスク(円盤)の両側からパッドを押し付けて制動力を生み出す。
ドラムブレーキの大きな特徴は、サーボ効果と呼ばれる自己倍力作用にある。これは、ライニングがドラムに押し付けられる際に発生する摩擦力が、さらにライニングをドラムに押し付ける力として作用する現象だ。この効果により、比較的小さな力で大きな制動力を得ることができる。つまり、純粋な制動力だけを見れば、ドラムブレーキのほうが優れているのである。
ただし、実際の運用環境での制動性能を考慮すると、ディスクブレーキのほうが優れている。とくに高速走行時や長時間使用時の熱に対する耐性や安定性など、総合的な制動性能において、現在ではディスクブレーキが優れていると評価されている。
フェード現象とメンテナンス性の問題
というのも、ドラムブレーキには致命的な欠点がある。それが「フェード現象」だ。ブレーキを繰り返し使用すると熱が発生するが、ドラムブレーキはその構造上、熱を外に逃がしにくい。熱によってドラムが膨張すると、ライニングとドラムの間に隙間が生じ、ブレーキの利きが悪くなってしまう。
さらに、メンテナンス性の面でも大きな問題があった。ドラムブレーキは密閉された構造で、ブレーキパッドの交換ひとつをとっても、ドラムを外しスプリングなどの部品を慎重に取り扱う必要があった。整備士泣かせの代物だったのである。ただ、使用部品などのコストパフォーマンスがいいので、現在でもパーキングブレーキや比較的サイズの小さなクルマの後輪にも使用されることがある。