稼ぎは全部自分のもの……だけど!? かつての最終目標だった「個人タクシー」を目指す人が減っている理由とは? (1/2ページ)

この記事をまとめると

■タクシー運転士は「簡単にできる仕事」だが長期間に渡って続けるのはそう簡単ではない

■昔のタクシー運転士は「成功の証」として個人タクシーを開業した

■最近は個人タクシーを業界での「最高位」と意識していないタクシー運転士が増えた

タクシー運転士は個人タクシー開業に憧れていた

 世間では二種免許を取得してクルマさえ運転できれば誰でも簡単にできる仕事と勘違いされているのがタクシー運転士。確かに、「誰でも簡単になれる」というのは間違っていない。しかし、「タクシー運転士」になることはそれほど難しくなくとも、「一生の生業」とまではいわないまでも、長期間仕事として続けていくのはそう簡単なことではない。

 まず、運転士本人の自覚の問題がある。

「いまのところ、異業種からの転職として運転士になるケースが目立ちます。そのような運転士のなかにはいつまでも過去を引きずっている人がいます。前職が一般的なサラリーマンならまだしも、会社や店舗経営者で廃業して運転士になったような人だと、『過去の栄光』をいかに吹っ切ってタクシー運転士としてキャリアを積んでいけるかがカギを握ります」とは事情通。

 いつまでも過去を引きずって運転業務についていれば、稼ぎも伸び悩み、乗客からのクレームも目立ってしまうようである。

 過去には、タクシー運転士の「成功の証」が個人タクシーの開業であった。タクシー事業者に籍を置き、優良乗務員として運転士を続け資格要件を満たしたところで試験に合格し、認可を受けて晴れて個人タクシー運転士となるので、運転技術や乗客への対応など、まさに否のない「スーパータクシー運転士」が個人タクシー運転士であった。

 個人タクシー運転士に憧れていた理由としては、法人タクシーでは事業者と運転士で売り上げをシェアするのが大原則なのに対し、個人タクシーでは稼ぎがすべて自分のものとなることが多い。営業時間や乗務シフトなどの自由がきくことも大きいといえるだろう。過去には営業区域内に自宅をもち、屋根のついた車庫で車両を保管しなければならないなど、資格取得要件がかなり厳格だったのだが、段階的に緩和されてきている。そしてそのなかで、「個人タクシーを開業する」というより、「個人タクシー運転士にさせる」といった動きも目立ってきた。

 タクシー会社にある労働組合というものは、そのほかの業種のような経営者側との「なれ合い」といったものは少なく、労働者である運転士の権利のために経営者と闘う姿勢が目立つものが多い。会社と対峙するので、とくに組合活動に熱心な運転士は、事故を起こさない安全運転を心がけ、乗客からクレームの来ない接客、そして一定で安定した稼ぎの維持など、経営者側から問題の指摘が来ないような最低限のことをクリアした勤務態度を心がけている。そのため、会社側としては、たとえ縁を切りたいと思っていても、その糸口がなかなかつかめないこともあった。

 そこで、「運転士として優秀だから」などと口八丁手八丁で個人タクシーを開業させ、自分の会社から卒業してもらうといったことを一時期していたと聞いたことがある。個人タクシー開業の資格要件緩和、そして前述したような意図的な法人タクシー運転士からの卒業などもあり、いまではかなり高齢となってはいるが、厳格な資格要件のころに開業した個人タクシー運転士と、要件緩和以降に資格取得した運転士ではずいぶん様子が異なるようである。

 ちなみに個人タクシーに使う車両は法人タクシーで使う車両に比べるとかなり豪華なものが目立つ。これについては「自分でなんでもできるということは、自分で売り上げや経費管理などもできます。いまではインボイス制度などの導入もあって厳格な管理が必要となりましたが、個人タクシーはそれに輪をかけた『どんぶり勘定』的な傾向が顕著なものと聞いております。そのなかで、経費処理の一貫としてより高額な車両をタクシーとして使う傾向が目立っていたようです。もちろん利用客の満足度向上というものもありますが……、どちらかといえば……」と若干奥歯にものが挟まったようないい方をしながら事情通は説明してくれた。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

-

愛車
2019年式トヨタ・カローラ セダン S
趣味
乗りバス(路線バスに乗って小旅行すること)
好きな有名人
渡 哲也(団長)、石原裕次郎(課長) ※故人となりますがいまも大ファンです(西部警察の聖地巡りもひとりで楽しんでおります)

新着情報