600馬力が2000馬力に変身!? 本気になれば3倍4倍当たり前ってマジか! クルマのエンジンチューニングの世界がヤバすぎた (1/2ページ)

この記事をまとめると

■エンジンのチューニングはコストと労力次第でいくらでも上を目指すことが可能だ

■チューニングは10年前では想定していなかったレベルに到達しているがこれからもさらに進化していく

■チューニングの度合いを3段階にわけてエンジン別のチューニングの到達点を確認

チューニングに限界はない

 エンジンのチューニングを行うというのはある意味、夢の追求ということができます。コストと労力をかければいくらでも上を目指すことはできるので、ツルシの状態から何倍ものパワーが発揮できたり、元の状態からは想像できない迫力をまとうことも可能です。

 それは自己満足の世界ではありますが、追求した結果、記録を出したり注目を集めたりすると、これ以上ないくらいの達成感が得られたりします。そして、その栄光や記録を目の当たりにした人のなかからそれを目指すフォロワーが誕生し、到達点が新たなベースとなり、さらにレベルが上がっていくというサイクルが起こります。

 記録自体も長い目で見ると10年前では想定していなかったレベルに到達していることは珍しくありません。当時の技術では限界でしたが、ほかの分野からの技術が入って来たりしてブレイクスルーが起こり、一気にレベルが底上げされたりという例は枚挙にいとまがありません。

 そんなチューニングの世界、先に「コストと労力をかければいくらでも上を目指すことはできる」と書きましたが、それでも現状での限界はあります。そして実際にチューニングを行う際には無限の資金などあり得ないので、コストと結果の兼ね合いも気になるでしょう。

 ここでは、「ライト」、「ガチ」、「アルティメイト」と3段階にわけて、いくつかのジャンルのエンジンを見て行きたいと思います。合わせてザックリとした費用(エンジンのみ)も併記するので、もしチューニングを目指すという場合は参考にしてください。

■まずはチューニングの概略から

 チューニングというのは本来「調律」や「同調」という意味の言葉です。なので、社外のECUでプログラムを変更して燃調や点火時期をベストな状態に合わせていく「セッティング」と呼ばれる作業がその本来の意味に近いと思いますが、実際はパーツや構造、材質を変更してエンジンの出力や特性を変えていくことをチューニングと呼んでいます。

 チューニングのメニューはそれこそ千差万別で、入門編といえるエアクリーナーの交換レベルから、もはや原型を探すのが困難なほどモディファイされ、もとの数倍の馬力を発揮するものまで、フトコロ事情や情熱、あるいは使命の大きさに応じてレベルはさまざまです。

 ベースは市販車のエンジンであることがほとんどですが、ひとくちに市販車のエンジンといっても燃費重視のタイプや出力重視のタイプなど、その目的に応じて排気量や性能のレベルは異なります。

 基本的にチューニングというのは、耐久性や実用性を削って出力向上に効く構造や素材に換えていくのが常套手段ですが、たとえば各メーカーの出力性能重視タイプのエンジンの性能はかなり高いところにあり、スペック上は20年前のレーシングエンジンに迫るほどのレベルと完成度になっているので、チューニングによって出力が向上できる余地はけっして多くありません。

 逆に出力向上の余地が大きいのは自然吸気の実用エンジンです。単純にターボ化することで大幅なパワーアップが見込めますし、もとが出力重視ではないため、上記の耐久性と実用性を犠牲にする常套手段が使える余地が大きいといえます。

 これらのチューニングの概要を踏まえて、それぞれのエンジンタイプごとのチューニングの可能性を見ていきましょう。

1)日産GT-R搭載の「VR38DETT」エンジン

 チューニングというと多くの人が思い浮かべるであろう、日産GT-Rに搭載されている「VR38DETT」のケースを見ていきましょう。

「VR38DETT」は3.8リッターのV型6気筒をツインターボで過給する方式のエンジンです。素で570馬力、NISMOは600馬力を発揮し、現在の日産のラインアップで最高出力のユニットとなっています。

 出力の絞り出し具合のバロメーターである「リッター換算馬力(1リッターあたりの出力)」は素のほうで150馬力/リッターです。この数字自体は世界的に見てトップレベルではあるものの、ランキング上位とはいえません。

 しかし、このVR38DETTのすごいところは、このレベルのパワーを絞り出しながら、サーキットを全開走行したあとでも普通にクーラーを利かせて自走で帰れるという安定性にあります。つまり、チューニングの余地はそれなりにあるといっていいでしょう。

 具体的には……

<ライト>

 VR38DETTのライト(チューン)レベルで見込めるパワーは600馬力オーバーくらいです。これ以上も可能ですが、発熱やパーツの強度などに影響が大きく耐久性を激しく損ないます。

 チューニングの内容は吸排気系の交換とECUの書き換えによるブーストアップで、費用は50万〜100万円くらいでしょうか。

<ガチ>

 ガチでチューニングする場合の出力は1000馬力以上になります。このレベルになるとチューニングの内容は多岐にわたりますが、主要なところを挙げていくと、ビッグタービン、高強度のピストン&コンロッド&クランク、ハイカムへの交換、シリンダーヘッドの加工、動弁系パーツのモディファイ、吸排気系のサイズアップ、大容量インタークーラー&ラジエター、社外コンピュータと専用のプログラムなどなど。

 費用は一気にハネ上がり、レベルに応じて300万〜1000万円以上となります。

<アルティメイト>

 ずばり、VR38DETTのチューニングで現在の最高レベルは2000馬力オーバーです。これは純正のシリンダーブロックを使ってストロークアップで排気量を上げたケースのMAXです。1本だけの記録狙いでNOSを注入して「ブロー上等!」という覚悟なら2300馬力は出せるかもしれません。その場合のリッター換算馬力は600馬力/リッター以上に至ります。異次元の域ですね。

 チューニングのメニューは<ガチ>と大きく違いはありませんが、異なるのは耐久性の犠牲度合いの大きさです。このレベルになると、いくら高価な素材や加工を施して冷却に尽力しても、連続で全開できる時間は数分が限界でしょう。限界というのは、クールダウンすればあと何回かはアタックできるということです。
いわゆる次回のオーバーホールまでの時間でいうと数時間分(絞り出し具合によります)という感じでしょうか。

 まさに命を削って出力を得ているというレベルです。費用はというと、800万〜1500万円以上といった感じでしょう。

 ただ、これはエンジンだけの価格で、このレベルになると駆動系とタイヤはすべて専用のゴツいものへの交換が必須で、ボディはその駆動力を受け止めるように強化し、安全確保のためのロールケージも必須です。タイム狙い目的なら軽量化もするでしょうから、トータルは数千万円になると思われます。

 ちなみに「VR38DETTベースで4000馬力出せるよ」と謳っているチューニングキットもありますが、排気量が5リッターになっているようなので、もはや別物のエンジンといっていい内容までモディファイされていると見ていいでしょう。


往 機人 OU AYATO

エディター/ライター/デザイナー/カメラマン

愛車
スズキ・ジムニー(SJ30)※レストア中
趣味
釣り/食べ呑み歩き/道の駅巡りなど
好きな有名人
猪木 寛至(アントニオ猪木)/空海/マイケルジャクソン

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