この記事をまとめると
■高速で走るクルマは空気抵抗が大きい
■前走車の後ろにぴたりとついて前走車を風よけにすると燃費が向上する
■スリップストリームはレースシーンで多く活用されている
空気の力は想像以上!
現代のレーシングカーの優秀性は空力性能によって大きく左右される。
クルマの走行抵抗には、単純転がり抵抗、内部抵抗、勾配抵抗、加速抵抗、空気抵抗の5つがある。この5つの抵抗のなかでもっとも大きいのが空気抵抗で、しかも空気抵抗は速度の二乗に比例して大きくなるので、ハイスピードになればなるほどその影響が大きくなる。
具体的には、およそ160km/h以上になると、抗力の9割は空気抵抗になるといわれていて、エンジン出力の大半は、この空気抵抗に打ち勝つために使われている。だからこそ、優秀なレーシングカー設計者=優秀なエアロダイナミストとなるわけだ。
そうした巨大な空気の壁だが、レースではある条件が揃うと、空気抵抗が大幅に減少することがある。それは前走車の後ろにぴたりとついて、前走車を風よけに使ったときだ。先頭の車両は、空気の壁を自力で掻きわけていく必要があるが、その直後を走るクルマは、空気抵抗が減り、気圧低下による吸引効果も得られるメリットがある。
この前走車が作り出す空気抵抗が小さいエリアに入り込むことを「スリップストリームに入る」という。最近のF1中継などでは、このスリップストリームに入ることを「トウを得る(英:tow=牽引する)」と表現している。
スリップストリームを使えば、より少ないパワーで速度を高めることができるので、前走車のオーバーテイクが容易になり、追い抜きをしなくてもスリップストリームに入っている限り、エンジン回転を押さえ、エンジンの負担を減らし、燃費をよくするメリットがある。
こうしたスリップストリームによる空力的アドバンテージは、乗用車で高速道路を走っているときにも感じられる。
たとえば、前投影面積の大きい、大型バスや大型トラックを追走したとき、車間距離が100mを切ってくると、アクセルを踏み足していないのに、スッと前のクルマに吸い寄せられたような感覚を体験したことがあるだろう。あれも立派なスリップストリーム効果。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実験によると、90km/hで走るトラックの後方を車間距離30mで乗用車が走った場合、燃費改善率が11%になるとのこと。
現実的には、90km/hで走るなら、最低でも50mの車間距離は保持しておきたいので、実際はここまでの効果は期待できないだろう。
しかし、スリップストリームは、2台よりも3台、3台より4台と、いわゆる「トレイン」状態になった方が大きな効果が得られるので、車間距離を詰めなくても、前にトラックが2~4台並んでいる状態を作れば、空力的(燃費的)にかなりオイシイ思いができるということも覚えておこう。