この記事をまとめると
■ホンダがEVの第2弾となるN-VAN e:を10月に発売する
■発売に先立ちテストコース内で事前にホンダN-VAN e:に試乗することができた
■第2弾であるのが信じられないほどEVとしての完成度が高かった
冬の北海道でも暖房をガマンせずに100kmを走行できるクルマ
ホンダ(本田技研工業)のEV(電気自動車)第2弾となるN-VAN e:(エヌバン・イー)が、6月に正式発表された。価格は243.98万円からで、ひとり乗りの商用重視から、4人乗りで乗用にも利用可能な車種まで4車種の選択肢をもつ。駆動方式はすべて前輪駆動だ。
すでに市場にある三菱ミニキャブEVが競合車の1台と考えられる。その価格は、ふたり乗りが243.1万円から、4人乗りが248.6万円からで、商用を前提としたEVとして、N-VAN e:とほぼ同じような値付けだ。ミニキャブEVの急速充電機能付きはふたり乗りの248.6万円となり、N-VAN e:は、急速充電機能付きのひとり乗りで254.98万円からとなっている。
ちなみに、乗用の黄色ナンバーで購入する際は55万円、黒ナンバーとなる商用で購入する場合は約100万円の補助金対象となる。
ミニキャブEVの車載バッテリー容量は20.0kWhであるのに対し、N-VAN e:は29.6kWhと1.5倍近くある。これにより、一充電走行距離(100%満充電から何km走れるか)で、ミニキャブEVが180kmであるのに対し、N-VAN e:は245kmに達する。
この点について、N-VAN e:の開発責任者は次のように語る。「極寒の北海道などで、暖房の空調を使いながら、1日100km(宅配便想定)を走行できることを前提にバッテリー容量を確定し、この目標については当初から変更していない」。
仕事で使うEVである以上、途中で電欠したら意味をなさなくなる。WLTCとして表記されるカタログ上の諸元数値は、空調を使わずにモード走行を繰り返した性能だ。これは、エンジン車もEVも変わらない。このため、諸元と実燃費(EVでは電力消費)に差が生じやすい。しかし、それでは仕事に使う商用EVとしての実態をとらえにくいので、N-VAN e:は、あくまで実用での確実な性能達成を目指したとのことだ。
一方乗用車と違い、商用車は生産財としてこれを使って商売を成り立たせなければならない。したがって、開発や製造の原価により厳しい目が向けられ、購入希望者は可能な限り安く手に入れられる(仕入れられる)ことを強く求める。
競争力のあるN-VAN e:の値付けは、バッテリー容量を増やしながらどのように達成されたのだろう。
「当初の目標である、在るべき姿を変えず、変更しないことにより開発原価が抑えられる利点があります。目標を途中で変更すればその分の開発の手間が増え、完成日時も遅れます。車両開発では、エンジン車から変更すべきところと変えずにおくところを明確にわけました。EV専用となる事例としては、ドアの内張を貨物コンテナのような縦の筋を設けた意匠とし、それは見栄えだけでなく樹脂の強度を高め薄肉化することで、軽量化と材料原価を下げることにつながっています。フレーム構造もバッテリーケース自体が剛体となるとはいえ、それに合わせたサイドシルにするのではなく、アルミの押し出し材を使って側面衝突の余裕代を持たせ、フレーム構造は変えないようにしています」と、開発者は説明する。
ほかに、クルマ作りの面でN-VAN e:ならではとなるのは、廃棄バンパーの樹脂を再利用した素材でフロントグリルを構成していることだ。一般に、再生樹脂素材は表面の塗装を取り切れず、外板など人の目に触れる部位に利用しにくいとされてきた。
だが、N-VAN e:ではあえて塗装の粒子をひとつの意匠として活かしてグリルに用いている。そこは、普通充電と急速充電の口があるので、日常的に目に触れる部分でもある。再生素材でありながら見栄えに耐え得るよう、材料の作り込みと品質には手をかけたとのことだ。そこに混ざる塗装の粒子は、かつてのシビックやNSXなどで使われていたものかもしれないという、密かな楽しみ方もある。
使い勝手では、スマートフォンを活用したアプリケーションがさらに充実し、充電管理や、出かける前の空調の設定、帰宅後の充電予約に加え、在宅中の充電中にブレーカーが落ちないよう充電の電流量を抑える設定をできるようになった。
また、普通充電口から外部へ電力を取り出せる機能が付くが、外部給電で電気を使いすぎて帰宅できなくならないよう、充電を残す設定などもできる。