この記事をまとめると ■いま自動車業界に携わる事業者各社がSDGsを推進している
■今回はタイヤメーカー「ミシュラン」の例を紹介
■「2050年までに100%リサイクル可能な材料で作る」という目標を掲げている
「リトレッド」と「リグルーブ」で環境への負荷を軽減 昨今、ニュースなどでよく耳にする言葉に「SDGs」がある。これは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のことだ。現在、世界では貧困・紛争・気候変動・感染症など、数多くの問題が発生している。この状況が続けば、人々が安心・安定した生活を続けることが難しい。そこで、世界中のさまざまな立場の人々が話し合い、課題を整理し、解決方法を考え、2030年までに達成するべき具体的な目標を立てているのである。流通業界の課題として挙げられている「2024年問題」は、それら解決するべき問題のひとつにあたるわけだ。
自動車業界に携わる事業者もこれに倣い、各社がそれぞれ問題解決に向けた持続可能な社会を目指して、具体的な行動プログラムを作成している。横浜で開催された「ジャパントラックショー2024」では、タイヤメーカーのミシュランがこれに向けた取り組みを発表・展示した。同社では、「人・利益・環境」のバランスによって、「持続可能な世界」を築こうと考えている。そのなかで、同社の製品を「2050年までに100%リサイクル可能な材料で作る(2030年には中間目標として40%、2023年の実績は28%)」という目標をもっているのだ。
ミシュランの取り組みのイメージ 画像はこちら
これを達成するための具体的な行動のひとつが、タイヤの「リトレッド」と「リグルーブ」だ。「リトレッド」とは、使用して摩耗したタイヤのトレッドを新しいトレッドに交換すること。タイヤの接地部分であるトレッドには溝が切ってあり、これはおもに排水機能を持っている。タイヤを使用することでこの溝が摩耗し、残溝1.6mmを切ると危険度が増すので車検に通らなくなる。本来ならこの段階で廃タイヤとなり、処理が難しいやっかいなゴミになるわけだ。
しかし、ここで新しくしたトレッドをこのタイヤに貼り付ければ、再び使用可能なタイヤとして再生する。これにより、タイヤの寿命は最大で2倍に伸びるため、張り替え費用を考えてもコストは新品に比べて40%程度抑えることができるのだ。
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環境保護の観点からは、
・100本のタイヤをリトレッドすれば、原材料5トン・放出CO2は6トン以上抑えることが可能
・3軸トレーラータイヤ換算で、約300kgの廃棄物を削減可能
といったメリットがある。また、「リグルーブ」は使用することですり減ったトレッドパターンの溝を復元するために、既存のゴム層から再度溝切りをしてその深さを復元する技術である。これを行うことで、タイヤの寿命を最大25%程度延ばすことが可能になるのだ。さらに、タイヤは摩耗すると転がり抵抗が減少するために、リグルーブタイヤは最大25%程度燃費の向上が期待できる。
ただ、タイヤメーカーが製造する新たなトレッドを、工場で張り付ける「リトレッド」とは違い、「リグルーブ」は現場(タイヤメーカー傘下にはないタイヤ販売店や整備工場など)作業員の手によって行われる技術だ。ゆえに、メーカーが推奨するパターン・溝の深さ・ブレードなどと異なる場合、十分な機能を発揮できない危険性を孕むことになる。
そこで、
・「リトレッド」ができるタイヤを明確に表示する
・使用されたタイヤの状態から、「リトレッド」が可能か否か判断する基準を示す。
・作業者に「リトレッド」の技術を習得させる
といったことが必要になるため、技術研修やマニュアルなどが用意されているのだ。
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単純に考えれば、タイヤメーカーは新品タイヤを製造・販売した方が高い利益を得ることができる。ひと昔前の投資家であれば、そういったメーカーを支持したであろう。しかし、「SDGs」が世界標準となりつつある現在では、「人・利益・環境」のバランスを考えてこそ、「持続可能な」事業となり得るのである。