「デザインだけ変えるようなマイチェンにはしたくなかった」
今回のトヨタ・ハリアーマイナーチェンジの最大の見どころのひとつである2リッターターボだが、じつは開発当初は計画されてはいなかったという。開発責任者の石井隆さんは次のように振り返る。
「当初は、順調なセールスを記録しているのだから、そんなに変える必要はないだろうという話だったんです。理にかなった考え方です。ですが自分としてはデザインを少しだけ変えてマイナーチェンジ完了というふうにはしたくなかったんです」
石井さんら開発メンバーはターボの導入案を上層部に願い出た。
「国内専用のモデルですから、売れているとはいえ、グローバルモデルに比べれば当然、販売台数は限られます。マイナーチェンジでターボ導入なんて、あっさり却下されるだろうと思っていました。ですが、ハリアーの兄弟車であるレクサスNXのターボのシステムを適合させれば、開発工数を増やすことなく導入が可能だろうと。すぐにGOサインが出たんです」
ターボエンジンの追加にあたっては、そのポテンシャルを存分に発揮できる足まわりが必要だった。そこで開発チームが取った手段は、フロント・リヤのパフォーマンスダンパーの採用だった。
「ロール剛性をしっかり上げて、運転者の思いどおりのクルマの動きを実現する。マイナーチェンジなので、なかなかボディの変更は困難で、ボディの剛性は変えられませんから、車両全体でロール剛性を上げるという考え方です」
パフォーマンスダンパーはほかのトヨタ車種の一部にも採用されているが、ハリアーのそれは独特の特徴を持っている。それは取り付け位置だ。一般的にはサスペンションの頭部にあたる部分を繋ぐケースがほとんど。いわゆる「タワーバー」が装着されている図を思い浮かべていただくと取り付け位置がイメージできるだろう。一方、ハリアーではサイドメンバーの前後端に取り付けられている。ボデー設計出身の石井さんならではのアプローチといえるだろう。
「タワー剛性を狙いに行くというのが一般的だと思いますが、最近の車両では十分な剛性を確保していて、もともとそこは硬くできている部分なんです。対してサイドメンバーの先端は、車体のなかでもっとも遅れて動く部分ですから、パフォーマンスダンパーがすごく効く場所だと思っています。北米向けのモデルだと、あちらの安全基準に合わせたバンパーレインフォースメントが入っているために装着するスペースが取れないんですが、3代目ハリアーは国内専用ということで、ここに装着することが可能だったんです」
パフォーマンスダンパー以外にも、走行制御モードに「スポーツモード」を追加し、ターボならではの力強い加速感とスポーティなハンドリングの獲得を目指した。
「じゃじゃ馬ではなく、スポーティなんだけどハリアーらしい高級感のあるスポーティさです。走りの良さは、とくに高速のレーンチェンジやワインディングといった場面でしっかり味わっていただけると思います」
ターボだけでなく、NAとハイブリッドでも、制御系の見直しによってさらなる磨きがかけられている。
「従来のNAは、わずかにもたつきが感じられる場面があったんですが、より走るような方向に振ってあります。エンジンブレーキのフィーリングも少しスポーティな味付けにしてあります。マイナーチェンジ前のモデルでもパワーモードに入れると、高速道路での追い抜きなどでもストレスを感じることのない気持ち良い走りが味わえます。さらにハイブリッドでは、通常のアクセルワークではエンジン回転数を抑え、しっかりとアクセルを踏むと実力どおりの加速性能を発揮できるように制御を入れました」
このあたりのことは、じつはカタログにも書かれていない。ぜひ試乗して体感してみていただきたい。