「NSX-GTよりもストレートは速い」 スーパーGTに新規参戦するシビックタイプR-GTの開発陣&ドライバーを直撃した (1/2ページ)

この記事をまとめると

■2024年シーズンのスーパーGTからデビューしたホンダ・シビックタイプR-GT

■シビックタイプR-GTがその前の「NSX-GT」とどこが違うのかホンダの開発責任者に聞いた

■ドライバーにはシビックタイプR-GTを運転してみての手応えも聞いた

スーパーGTにシビックタイプR-GTがデビュー

 2024年のスーパーGT第2戦「FUJI GT 3 HOURS RACE」が5月3〜4日、富士スピードウェイを舞台に開催。真夏のような空の下、117周のバトルが展開され、3号車「Niterra MOTUL Z」がGT500クラス、88号車「JLOC ランボルギーニGT3」がGT300クラスのウイナーに輝いた。

 それにしても2024年のスーパーGTはじつに面白く、GT500クラス、GT300クラスともにニューマシンが登場。そのなかで、もっとも注目を集めているマシンが、ホンダがGT500クラスの主力モデルとして投入している「シビックタイプR-GT」だといえるだろう。

 1997年の全日本GT選手権にデビューして以来、それまでホンダのGT500クラスはNSXをベースに開発された「NSX-GT」が主力モデルを務めており、2000年に道上龍選手がチャンピオンに輝いたほか、2007年のスーパーGTでは伊藤大輔選手/ラルフ・ファーマン選手がチャンピオンを獲得するなど、2009年まで初代NSX-GTが活躍。

 さらに2014年からは2代目NSX-GTが猛威を発揮しており、2018年に山本尚貴選手/ジェンソン・バトン選手がチャンピオンに輝くと2020年には山本選手/牧野任祐選手がドライバー部門でタイトルを獲得したことは記憶に新しい(https://www.webcartop.jp/2023/11/1238618/)。

 そんな名車、NSX-GTの後を受け継ぎ、2024年の開幕戦に合わせてシビックタイプR-GTがデビューしたのだが、シビックタイプRをベースとした同モデルはどのようなマシンなのか?

 というわけで、ここではマシン開発を担うHRCでスーパーGTプロジェクトの総責任者を担当する佐伯昌浩氏と同プロジェクトで車体開発の責任者を担当する徃西友宏氏にシビックタイプR-GTの特徴を解説してもらった。

 ——2024年に合わせてホンダのGT500車両がNSX-GTからシビックR-GTになりましたが、メリットはあるんでしょうか?

 佐伯氏:GTマシンはベース車両をスケーリングしてデザインするんですけどね。その結果、NSX-GTの場合は空気抵抗が大きいボディ形状でしたが、CIVIC TYPE R-GTは空気抵抗が少ないので、そこがメリットになります。もちろん、その一方で、ダウンフォースの強いNSX-GTに対して、シビックタイプR-GTはダウンフォースが減る傾向にあります。

 ——NSX-GTとシビックタイプR-GTは真逆なんですね。そういった意味では、シビックタイプR-GTはコーナリングで苦労しているんでしょうか?

 佐伯氏:確かに両極端にありますね。ダウンフォースが減っているぶん、NSX-GTと比べるとシビックタイプR-GTはコーナーで少し苦労していますが、ストレートはNSX-GTよりシビックタイプR-GTは速くなっている。本当に真逆の性格です。

 ——ストレートで速いのは武器になりますよね?

 佐伯氏:NSX-GTはストレートが遅いので、レース中に燃料をセーブする走りが必要なときでもストレートエンドまでアクセルを踏んでいないと抜かれるぐらい厳しい状況でしたが、シビックタイプR-GTになってストレートが速くなったぶん、そこまでがんばらなくても抜かれることはない……ということが他メーカーと比較して出てきたので、レースは少しラクになったと思います。

 ——なるほど。そうやって考えるとNSX-GTで苦手だった富士がシビックタイプR-GTで得意になったとか、そういった現象があったりするんでしょうか?

 佐伯氏:いや、これが不思議なもので、普通に考えるとNSX-GTは富士が苦手になるはずなんですけど、結果だけを見れば富士の勝率は悪くない。ここにはタイヤの要素があって、しっかりダウンフォースを出すことでタイヤが長持ちしてくれてメリットになっている。一概にストレートが長いからシビックタイプR-GTは富士が得意とはいい切れない部分です。

 ——ぶっちゃけ、シビックタイプR-GTは2023年のNSX-GTよりも速いんでしょうか?

 徃西氏:レーシングカーの場合、車高を低くすれば、床下でダウンフォースが稼げるのでコーナリングスピードが速くなるんですけど、GT500クラスの車両はここ数年でコーナリング速度が速くなってきているので、2024年はそれを抑制するために、すべてのGT500車両は走行中の最低車高が昨年より5mm高くなりました。昨年と比べるとそういった遅くなる要素があるので、単純に比較できない部分があります。

 ——なるほど。ちなみに、GT500車両のエンジンはNRE(ニッポン・レース・エンジン)で、ホンダは「HR-420E」というエンジンを採用していたと思いますが、エンジン単体は昨年までNSX-GTで使用していたものと同じなんでしょうか?

 佐伯氏:2024年のエンジンに関しては、基本骨格は昨年のエンジンと同じです。パワーを上げる部品はあるんですけど、信頼性の保証がまた確認できていないものがあるので、大きく変わっていませんが、昨年のシーズン中に目処がたった部品は2024年のエンジンに入っているので「正常進化」はしていますし、まだ開発可能領域が残っているので、やろうと思えばガラッと変えることもできます。

 ——そもそもGT500車両は1/1RCカーみたいにマシンの外側だけNSX-GTからシビックタイプR-GTになった……といったイメージを持っているんですけど、エクステリア以外はNSX-GTと同じだったりするんでしょうか?

 佐伯氏:モノコック、ロールケージ、フロントフレーム、リヤフレーム、ギヤボックスは昨年と同じですが、それ以外の部品はシビックタイプR-GTに合わせて新しく開発しました。

 徃西氏:共通部品は同じですし、タイヤやホイールも昨年までと基本は同じですが、冷却関連のパーツは各メーカーで独自に開発していますので、ラジエターやインタークーラーなど、シビックタイプR-GTにあわせて専用のパーツを開発しました。

 ——なるほど。そういった意味では、やっぱり新しいレーシングカーなんですね。ちなみにGT500車両は“スケーリング”して、ベース車両のシルエットを生かしてレーシングカーをスタイリングしていますが、ミニバンとか、軽自動車をベースにしてもスケーリングでもできるんでしょうか?

 徃西氏:考えたことはありませんが、ミニバンでもできますね。もともとワイドなNSXをスケーリングする場合、無理にデザインする部分もあるんですけど、コンパクトな軽自動車のS660なんかでスケーリングをしたら自由度が高いので、かなりカッコいいGTカーができると思います。

 ——S660-GT、見てみたいです。ところで、シビックタイプR-GTは実際の開発期間はどれくらいの期間を要したんでしょうか?

 徃西氏:テスト車両を完成させて初走行をさせたのが2023年の7月です。開発の着手はそれよりもずっと前になりますね。

 ——シビックタイプR-GTはシェイクダウンから8カ月で実践にデビューしたわけですね。これまでずっとNSX-GTを見てきたので、まだシビックタイプR-GTを見慣れてないのか、ちょっと違和感があるんですけど、やっぱり開発側も苦労されたんですか?

 徃西氏:2014年からNSX-GTを開発してきましたからね。ずっと同じシルエットのクルマで、どうやれば性能が上がるのかを把握した上で年次進化をさせてきたんですけど、シビックタイプR-GTはまったく違うスタイルのクルマですからね。この形状の場合、どういった空力開発の感度があるのかわからなかったので、その部分で苦労しました。開幕前までに車両形状を登録しなければならなかったので、その期日までにベストな形状に高めないといけない。やればやるほど性能が上がる時期があれば、やっても性能が上げ止まりになることもあったので効率よく開発することに苦労しました。


廣本 泉 HIROMOTO IZUMI

JMS(日本モータースポーツ記者会)会員

愛車
スバル・フォレスター
趣味
登山
好きな有名人
石田ゆり子

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