この記事をまとめると
■デコトラの魅力のひとつに箱絵が挙げられる
■手法には筆描きとエアブラシの2種類が存在する
■筆描きとエアブラシそれぞれの特徴を解説する
箱絵はエアブラシで描くのが一般的
昭和の時代から日本独自の文化として根付いているデコトラ。トラックをベースに派手なデコレーションを纏った車両のことをデコトラと呼ぶことは、多くの人が知るところだろう。デコトラのスタイルも年々変わってきているが、デコトラといえば「(荷台の箱に描かれた)箱絵」を連想する人も多いのではないだろうか。大きな車体に龍や虎などの絵を描いたトラックを見たときのインパクトは、想像を絶するほどに凄まじいのである。
そんな箱絵であるが、現在ではエアブラシで描くという手法が一般的になっている。昭和の時代では筆描きが主流だったのだが、平成の時代に入ると機材や技術力が発展し、エアブラシの作品が人気を集めるようになった。しかし、現代でも筆描きにこだわるデコトラオーナーが存在するのも事実。その理由はどこにあるのか。筆描きとエアブラシにおける、それぞれの特徴を考察してみよう。
まずは、迫力感。
デコトラ愛好家たちはとにかく迫力感を求めがちで、箱絵もそのような思いの強さから生み出されたものといっても過言ではない。そんな荒々しさや迫力感という面で見れば、力強い筆致で描かれた筆描きに軍配が上がる。そのため、龍や虎などをモチーフにする場合に、筆描きが好まれている。
そして、美しさ。
これはボカシや繊細なる描写が表現できる、エアブラシの真骨頂と呼べる部分。そのため、芸術的な仕上がりを求めるデコトラ愛好家たちに好まれているようだ。風景画や芸能人などの人物画を描きたいのであれば、エアブラシを選択する人が圧倒的に多いだろう。
このように、筆描きとエアブラシでは大きな違いが存在する。そのため趣味がわかれるのだが、筆描きが主流だった昭和時代のようなデコトラの製作に励む人たちは、やはり筆描きを好む傾向にある。飾りが昭和のスタイルであるのなら、箱絵も筆描きでなければ説得力に欠けてしまうのだ。箱絵はデコトラの完成度を大きく左右する存在であるため、妥協できないのである。
しかし、近年ではエアブラシが主流となり、筆で絵を描く職人の数も少なくなった。街を彩るさまざまな看板さえも、エアブラシ一色になっているのである。最近ではオートプリンターという機械を駆使して絵を描くスタイルまで生み出されているため、職人が筆で絵を描くという文化は、今後さらに縮小されてゆくことだろう。
銭湯に描かれていた富士山のペンキ画はもはや過去の産物となってしまった。時代が移りさまざまなものが進化することは喜ばしいことだが、それと引き換えに失われてしまうものも存在する。時代の流れといってしまえばそれまでだが、日本では定期的にレトロブームが訪れる。失って初めて気づくことは多いとは思うが、デコトラの世界のように昭和の美学を現代でも受け継いで展開するという風潮は、どの文化でも残って欲しいもの。そんなことを思うのは、筆者だけだろうか。
たとえ時代遅れだと揶揄されたとしても、日本人として誇り高き昭和の美学を残していきたいと願うばかりである。