この記事をまとめると
■かつてトンネルの照明にはオレンジ色に光る低圧ナトリウムランプが使用されていた
■自動車の排気ガスが溜まったトンネル内での視認性を確保するためにオレンジ色の照明が使われていた
■現在は維持しやすい白やオレンジ色のLEDランプがトンネルに使用されている
トンネルがオレンジ色の照明を使っていたのには理由があった
高速道路をよく利用する人は、「トンネルの照明が以前よりも明るくなった」あるいは「照明が白くなった」と感じたことがあるのではないでしょうか。
場所にもよりますが、新しく造られた道路や、都心近郊の広めの道路などにあるトンネルでよく出会う気もします。近頃はコンビニなどの店舗の照明だったり、家庭でも多く使われるようになっているので、「ああ、道路の照明にもLED化の波が来ているんだな」とクールな感想を持っている人がいる一方で、「昔はオレンジだったのになぁー」とノスタルジーな感想が漏れるのはけっこう高い年代の人だけでしょうか。
まだ地域によっては残っているところもあるにはありますが、昭和の時代はトンネルといえば「オレンジの照明」というのが当たり前でした。なかには「ねぇパパ〜、トンネルってなんでオレンジなの?」と無邪気な質問に答えられずに悶々とした経験のあるベテランのドライバーもいるでしょう。
ここでは、トンネルの照明がなぜオレンジ色に統一されていたのか? という疑問に答えるべく情報を集めてみましたので、それを紹介していきましょう。
■オレンジ色の照明には時代の背景が密接に関わっていた
たま〜に山奥の一車線の道の途中にあるトンネルなどで照明のないケースに出くわすことがありますが、日中の明るい環境から身構えずに真っ暗なトンネルに差しかかったとき、トンネル内部がまるで見えないせいで黒い穴に突っ込むような怖さを感じて思わずアクセルから足を離してしまいます。そして内部に突入すると、一瞬視界が奪われたような感覚に陥ります。そんな経験があれば、真っ暗なトンネルがいかに危険かを実感できていると思いますが、多くの人はそんな経験がないのではないでしょうか。
いまやほとんどのドライバーは照明で照らされたトンネルにあたりまえのように接していますが、トンネルに照明が付けられるようになったのは昭和の40年代からだというからビックリです。
その頃のクルマのヘッドライトは、いまの感覚で見ると“薄暗い”と言われそうな照度しかありませんので、それで真っ暗なトンネルに入ったら、徐行レベルまで速度を落とさないと恐かったのでは? と言ったら言い過ぎでしょうか?
ともあれ、そうして徐々にトンネルに照明が普及していったようですが、そのころに使われていた照明は「低圧ナトリウムランプ」と呼ばれる照明でした。
簡単に言ってしまうと「水銀灯」の仲間で、体育館や工場の天井に吊されたものや、公園などの広い場所を照らすための照明の仲間です。「ナトリウムランプ」の特徴は、色が「オレンジ」な点です。トンネルにはこのオレンジ色の特徴が活用されているのです。
それはなぜかというのが今回のお題ですね。オレンジ色の「ナトリウムランプ」が使われた理由は、「排気ガスが充満したトンネル内で視認性を良くするため」なのです。
昭和40年代の日本というと、高度成長期に沸き立つなかで急速に産業が発展して、街を走る自動車の数も急速に増えていた時期です。まだ排気ガス対策が行われていないので、クルマが通ると排気ガスでモクモクだったことでしょう。ましてや閉じられた空間であるトンネルの内部は、ガード下の焼き鳥店の焼き場並みだったことが想像されます。
その煙で充満した環境で、少しでも視認性を上げようと採用されたのがオレンジ色の「ナトリウムランプ」というワケなのです。
良く見える理由を乱暴に言ってしまうと、フォグランプと同じだと考えてください。霧が立ちこめた環境ではごく微細な水の粒が無数に散らばっている状態です。そこに強い光を当てると水の粒が光を吸収&拡散させてしまうため、その多くが遠くに届く前に散らされてしまいます。光のなかでは黄色の成分は吸収&拡散されにくい特性を持っているので、遠くまで届きやすく、視認性が確保できるというわけです。
また、色には人間の目が認知しやすい、コントラストがクッキリ伝わりやすい色味というのがあります。これはシチュエーションで異なりますが、当時の研究の結果として、トンネルのなかではオレンジの光が有効だと判断されたのだと思われます。