この記事をまとめると
■1990年にBMWは初代8シリーズを発売した
■V12エンジンを搭載するもSOHCだったことが災いしBMWらしくないと酷評された
■クルマとしてのデキは悪くなかったものの人気を得ることはできなかった
初代8シリーズが犯したやらかし
八という数字は末広がりの字面でもって中国や日本では縁起のいい数字とされています。が、BMWにとっての「8」は、期待したほど広がってはくれなかったのかと。いうまでもなく、1990年に発売された初代8シリーズの影の薄さといったらありませんからね。
打倒メルセデスベンツ500SLという目標を掲げながら、また伝家の宝刀となりえたV12を搭載しつつも、どうしてこうパッとしないのか不思議でなりません。
1990年、それまでの4シータークーペ、6シリーズの後継モデルとして登場した850iは8シリーズのトップバッターとして鳴り物入りでデビュー。ブンデスリーガのMVPにプレゼントされたり、TVコマーシャルも大量投下されるなど、BMWが社運を賭したといわれるほどの鬼プロモ。もちろん、メインマーケットの北米も同様に宣伝しまくりだったのですが、これはひとえに打倒SLという戦略に基づくもの。なにしろ、SLはR107からR129までアメリカで売れに売れまくったモデルですから、BMWが羨み、またラグジュアリーなキャラを前面に出す宣伝手法も参考としたことは否めません。
ですが、8シリーズは完成したときから致命的にやらかしてました。ゴルフ大好きアメリカ人にとって、ラグジュアリーカーはフルサイズのゴルフバッグがすんなりふたつ積めるのがデフォ。SLはギリながらもクリアしています。が、8は妙なところにこだわってしまい、なんと「専用ゴルフバッグ」を用意して、ドヤ顔でオプションパーツカタログまで作ったのです。が、これこそドイツ的な理屈っぽさで、バッグ自体は組み立て式カート(車輪)がつくなど機能的でさほど悪くはないものの、無造作にバッグを投げ入れるようなアメリカンにとっては「ノーウェイ!(そりゃないぜ)」って感じ。
とはいえ理知的なユーザーになると、リヤシートを倒してバッグを詰め込んだりしていたようですが、察するにセールススタッフの苦労は絶えなかったかと。
ちなみに、初代で懲りたBMWは、8シリーズの復活まで約20年を要していますが、さすがに二代目は十分なトランク容量が持たされ(みみっちいですが)4人乗り4バッグでゴルフに出かけることも可能となっています。
8シリーズが市場を見誤った「しくじり」はまだあります。1980年代後半、開発コンセプトを固める際、V12エンジンの搭載まではよかったものの、旧弊なSOHCを選んでしまったことを首脳陣は大いに後悔していると思われます。
ライバルと目していたSLがR107まではSOHCエンジンだったので、R129もオーソドクスな2バルブエンジンを載せると高をくくっていたのかもしれません。が、SLは新型V8で当然DOHCのシュッとしたエンジンで登場。
一方、BMWのSOHCは、前年に二代目7シリーズに搭載されたものを流用したのですが、これが時代遅れに映ってしまったのかもしれません。もっとも、7シリーズをしっとり走らせるには低中速トルクを重視した優秀なエンジンで、結局2001年まで2バルブのまま継続されましたけどね。