この記事をまとめると
■市販エンジンにチューニングを施して強心臓へと生まれ変わらせるのが「アバルト」
■現行アバルトF595は695シリーズよりも控えめながらSPORTスイッチで「サソリの毒」を呼び出せる
■ほかにはない独自性の強いスモールカーに仕立てられている
70年以上に渡ってフィアットに魔法をかけ続けているアバルト
純正チューナーの名門として、1950年代からフィアット車のチューンで鳴らしてきたアバルトを無視することはできない。
創業者カルロ・アバルトがチューナーとして名を高めたのは、フィアット車の市販エンジンをベースに打ち立てた数々の世界最高速度記録。まずエンジンを、大衆車のそれからエキサイティングな強心臓へと仕立て上げることで、走りも速さもスケールアップしてしまうのが、いまも昔もアバルトのマジックなのだ。
「F595」は、現在のアバルトではスタンダードといえるモデルで、エンジンのトルク&出力は210Nm・165馬力と、ハイパワーと過激さを求めた695シリーズよりも、はっきりと控えめチューンに振っている。
シャシーについては、初期領域のスムースさで定評あるコニFSDショックアブソーバーを採用するなど、乗り心地のうえでも快適性を重視している。要はピーキーな過激さよりも、日常的に扱いやすい出力特性を与えられた、やや穏やかなツアラー志向のアバルトといえるだろう。
とはいえ外観で目を引くのはリヤエンド。アバルトお約束のツインデュアルエキゾーストパイプはちゃんと備わっている。
また、車内では、ブースト計にシフトアップインジケーターといったスポーツドライビングを意識した計器類もぬかりない。
いざ走らせてみれば、トルク&パワー感こそ695トリブートほど強く主張しないだけで、SPORTスイッチを押している間は+20Nmの230Nmというブーストモードとなる。さらに、ステアリングの反応もクイックになる。いわば「呼び出せる毒気」とでもいうべきか。ノーマルモードでも巡航中にアクセルを踏み込むと、一瞬の間をおいて勇ましいエキゾーストを響かせ、猛然とF595はダッシュする。
刺激が薄いどころか、快適さを保ったまま、力強く息の長い加速と、アバルトらしい敏捷でいながら懐の深いフットワークが楽しめる点は、まちがいなくサソリの直系。小さくてもナメてかかると怪我するような毒気があって、乗り手を目いっぱい挑発してくる、それがアバルトなのだ。
豪快なパフォーマンスと繊細なハンドリングは、ちょっと替えの効かないスモールカーといえるだろう。