この記事をまとめると
■ライバル車同士の勝因と敗因を分析
■価格や装備、デザインといった要素で差が開いてしまうことが多い
■クルマの完成度は悪くないがメーカーの宣伝方法に難ありなケースもある
ライバル相手に惨敗しているモデルの原因とは
ソーシャルメディアを利用した個人での情報発信、自動車メーカーによるオウンドメディアなどが発展したこともあって、当事者目線でのクルマ情報を見かける機会が増えている。オーナーによるリアルな使用感、メーカーによるメカニズム解説などを楽しんでいる方も多いだろう。
そのため、自動車専門メディアの発信する情報には一層の独自性が求められるようになっている。そうしたなかで自動車専門メディアの独自コンテンツとして定番なのが「ライバル対決」と呼ばれるものだ。自動車という工業製品は、ユーザーニーズを満たすために存在しているといえる。人気のカテゴリーには各社が意欲的な商品を投入することでラインアップが充実、そのカテゴリーが盛り上がるという好循環が生まれている。
とはいえ、メディアによるライバル対決では互角といった評価であっても、市場の実態は異なることもある。ユーザーの「お目が高い」というべきだろうか、商品性としては僅差の勝負であっても、販売実績では大差がついていることも珍しくない。
代表例といえるのがトヨタ・ヤリス対ホンダ・フィットのコンパクトカー対決だ。
奇しくも2020年2月にフルモデルチェンジした4代目フィットと、ヴィッツから改名したヤリス。フィットもヴィッツもかつて日本で1番売れたモデルとなったことがあるビッグネームであり、同じタイミングでの登場は多くのメディアやジャーナリストが注目していた。いずれもガソリンエンジン車とハイブリッドを用意するのも共通で、ハイブリッドについては両車とも1.5リッターエンジンの2モーターストロングタイプとなっているのもガチンコ対決と感じられた。
柴犬のようなキュートなルックスで4気筒エンジンを採用するフィット、アグレッシブなスタイルを大胆なキャラクターラインで表現するヤリスと外観のイメージは正反対といえるもの。コンパクトカーのメインユーザーにはフィットのスタイルがウケるのでは? という見方もあったが、結果的にはヤリス圧勝となっている。
その理由として、フィットのスタイリングが優しすぎてインパクトがなかった、という声もあれば、当初フィットのガソリンエンジン車は1.3リッターで、最初から1.5リッターエンジンを用意していたヤリスに対して力不足な印象があった、という指摘もあった。
その対応として、2022年のマイナーチェンジによってホンダはフィットのガソリンエンジン車を1.5リッターに排気量アップしたほか、スタイリングについても手を入れている。しかし、それでも両車の差が埋まる気配はない。
おそらくフィットとヤリスの評価の差は「コストパフォーマンス」によるものだ。
ハイブリッドのWLTCモード燃費をFFの最良グレード同士で比べると、フィットの30.2km/Lに対して、ヤリスは36.0km/Lとなっている。実質的なコスト負担感でいえばさほど変わらないという印象ではあるが、表面の数字で2割の違いというのはインパクトが大きい。
さらに、車両価格においてもヤリスはお買い得と感じる設定になっている。
前述したハイブリッドのベーシックグレードを比較すると、フィットが217万5800円、ヤリスは201万3000円と明らかな差がついている。さらに、ヤリスは全グレードにディスプレイオーディオが標準装備となるが、フィットはナビ・オーディオ類をオプションとしている。つまり、乗り出す価格で比べると、圧倒的にヤリスのコスパが良いという結果になる。
ヤリスが3気筒エンジンで、フィットが4気筒エンジンを積んでいることを考えると、価格差はやむなしともいえるが、ハイブリッドであればエンジン回転の上質さは商品性の差にはなりづらく、コスパを考えるとヤリスが選ばれているのも当然なのかもしれない。