この記事をまとめると
■いま国産車の販売店が系列を設けることはなくなった
■それでも同一メーカー内に姉妹車やライバル関係になるクルマが存在する
■とくにトヨタは販売規模が大きいため、競争関係が生じやすい
身内同士で熾烈な戦いが展開されている
かつての日本車メーカーは、国内の販売会社に系列を設けていた。系列ごとに扱う車種が異なり、基本部分を共通化しながら別の車種にする姉妹車もあった。
しかし今は、系列が基本的に撤廃された。姉妹車も大半が廃止されている。トヨタは今でも、トヨペット店やネッツ店といった系列を残すが、2020年5月以降は全店が全車を扱う。従って系列の区分は実質的になくなった。
たとえばルーミー&タンクの姉妹車は、後者が廃止されて、今はルーミーのみだ。例外はノア&ヴォクシーで、新型になっても統合されていない。国内向けの車種だから大量に売る必要があり、ノア、ヴォクシーともに知名度が高く販売も好調だから、両姉妹車のフロントマスクを明確に変えて存続させた。
その一方で、姉妹車ではなく別のクルマとして開発されながら、結果的に競い合う車種も存在する。とくにトヨタは販売規模が大きいために、車種の数も多く、競争関係が生じやすい。
トヨタのコンパクトカーを見ると、直列3気筒1リッターエンジンを搭載するパッソと、同じエンジンを積むヤリスのベーシックグレードは互いに競い合う。ヤリスハイブリッドとアクアも、駆動用電池などに違いはあるが、基本的な機能は共通だ。ボディはアクアが少し大きく、居住性や乗り心地が快適で、ヤリスには走りの軽快感が伴う。
トヨタのコンパクトSUVでは、ライズは5ナンバー車、ヤリスクロスは3ナンバー車だが、全長は両車とも4m前後だ。ミドルサイズのC-HRとカローラクロスは、ボディスタイルは異なるが、プラットフォームは共通でホイールベース(前輪と後輪の間隔)も等しい。ハリアーとRAV4も同様だ。同じサイズでも、コンセプトやデザインの異なるSUVをそろえているから重複も生じる。
この背景には、SUVの多彩な商品特徴も絡んでいる。前輪駆動のプラットフォームを使うSUVでも、RAV4のような4WDが中心になるオフロード派と、ハリアーのように性格がワゴンに近いシティ派に分類される。SUVは同じサイズでも作り分けが可能だから、各社とも車種を豊富にそろえて、売れ行きも好調だ。
マツダは国内で販売される車種の内、OEMを除くと、半数以上がSUVだ。しかもCX-30とMX-30は、ボディサイズがほぼ等しい。CX-30はマツダが主力とするスポーティ路線で、MX-30は「従来のマツダ車に興味を持たなかったお客様を取り込みたい」という考え方に基づき、リラックスできる柔和なデザインに仕上げた。
さらに前輪駆動のCX-5と後輪駆動のCX-60では、居住空間や荷室の広さはほぼ同じだ。CX-60は直列6気筒エンジンを用意する後輪駆動車とあって、ボディの前側が長くCX-5よりも上級に位置付けられるが、CX-5と競争関係が生じるのは避けられない。そこでCX-60も、価格が300万円を下まわるグレードを用意した。メーカーが望んだことではないが、身内同士で熾烈な戦いが展開されているのだ。