
この記事をまとめると
■かつてのFFはフロントヘビーでコーナリングが苦手といわれていた
■FF車のコーナリングテクニックとして「タックイン」が使われた
■現在のFF車は性能が高くアンダーステアも消えたためにタックインを使う必要がなくなった
タックインってどんなテクニック?
乗用車の駆動方式の主流がFFになってもうずいぶん時間が経っている。FFはスペース効率がよく、室内を広くすることができて、部品点数が少なく軽くてコストも抑えることができる、といったメリットがあるが、かつてはフロントヘビーでフロントの慣性質量が大きいのでコーナリングが苦手(その代わり直進性は高い)といわれていた。
いまではシャシー、サスペンション、タイヤの進歩などの各種技術の向上で、曲がらないFFもなければ、トルクステアが気になるFFも少ないし、トラクションが抜けやすいFFもほぼ見かけなくなり、FF車でスポーツ走行をするときの特別なテクニックも必要なくなった。
「タックイン」はその時代に広まったFF車専用テクニックのひとつ。
FF車はフロントタイヤが駆動輪になるので、コーナリング中にアクセルを踏み足すと、フロントタイヤのコーナリングフォースが減少し、パワーアンダーステアが出てしまう。このコーナリング中のアクセルオンで、弱いパワーアンダーステアが出ているときに、アクセルペダルから右足をパッと離すと、クルマがコーナーの内側に巻き込むような挙動変化を見せる。
「タックイン」とは、この急激なヨーイングのことだ。
前述のとおり、FF車は質量の中心がフロントにあり、静的バランスでいえばフロントの荷重が大きい。アクセルを踏んで加速している状態だと、リヤにも荷重がかかっているが、踏んでいたアクセルを一気にオフにすると荷重が瞬時にフロントに移り、リヤ荷重が大きく抜けてリヤタイヤのグリップレベルが急激に下がるので、それがコーナリング中であればリヤタイヤの横力(コーナリングフォース)が失われて、テールが流れる=アンダーステアが消えるというのが、タックインの理屈。
アクセルのオンオフがきっかけでピッチングが起こり、そのピッチングにより前後の荷重バランスが大きく変わることを利用したテクニックだが、いまのクルマはサスペンションのアンチダイブジオメトリーも効いているし、サスペンション、とくにリヤサスペンションの接地性もかつてのFF車とは比較にならないほど向上しているし、何よりタイヤの性能が高いので、タックインのような大きな操縦性の変化は、なかなか表面には出てこない。
一方で、駆動方式にかかわらず、定常円を最速の状態、つまりタイヤのコーナリングフォースの限界で走っているとき(フロントタイヤからかすかにスキール音が出ている状態)に、アクセルを素早くオフにすると、どんなクルマでも大きなヨーが出ることを体験できる。
同じ速度でもより低いギヤで走っているときほど、その効果は大きいので、機会があればジムカーナ場など安全な場所で試してみるといいだろう。