プロの指導のもと走りを極める 4月24日の筑波サーキットは、生憎の雨。雨量も多めだ。
この日の参加者に話を聞くと、「クルマはもっていますが、モータースポーツ経験はほぼなし」、「MT車なんてほぼ乗ったことがない」、「18歳なので免許を取ったばかり」なんて人がほとんどであった。そんな人たちが、いきなり筑波サーキットを走っても大丈夫なのだろうか?
MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラム「バーチャルからリアルへの道」の参加者 画像はこちら
しかし心配無用。そこはマツダが全面バックアップをしているのでご安心を。
会場には、写真左から順に、本プログラムで講師を務めるチーフインストラクターの加藤彰彬さん(スーパー耐久を始めさまざまなレースに参戦)、三宅陽大さん(1期生で現在パーティーレース参戦中)、スーパー耐久において120号車を担当する加藤達彦さん(同プログラム1期生で24年度のパーティーレースチャンピオン)という、凄腕が集結。
MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラム「バーチャルからリアルへの道」の講師陣 画像はこちら
筑波サーキットの走り方を印刷した資料をもとに基本的なラインを解説したり、車載映像やデータロガーを細かくチェックし、各ドライバーが安全に走れるよう指導をする。筑波サーキットのスタッフも、旗の種類や注意事項を細かく紹介していた。
MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラム「バーチャルからリアルへの道」で解説する加藤さん 画像はこちら
参加者のほとんどが前述のようにバーチャル出身。スーパーGTの世界にもeスポーツ出身のレーサーが数名いるが、実車とゲームではなかなかリンクしないことが多いのは事実。トレーニングにはなるが、ゲーム内のことを全部実戦で活かせるかというと、必ずしもそうではない。しかもこの日は雨。さらに、別の走行会でオイルを吹いてしまった車両がいたようで、コンディションもよくない。
MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラム「バーチャルからリアルへの道」の様子 画像はこちら
それでも、インストラクターたちの先導走行や指導などもあって、大きなクラッシュなどもなく、参加者全員がそれなりのペースでコースを周回。速い人では、雨の筑波を1分20秒ほどで走っていたほどだ。何度も筆者もここを走っているが、このタイムをモータースポーツを囓った程度の人が出したとなれば、かなりのものだとすぐに理解できる。選抜されただけあって、みんなレベルが高い。
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開始前には映像を通じて、マツダ車のデザインを主導してきた前田育夫さんが、「皆さんはeスポーツにおいては匠とも呼べる人たちですが、バーチャルと実車ではいろいろ異なるのは事実です。ここまで来られたのには、きっと多くの人の協力もあったことでしょう。周囲への感謝を忘れずに、クルマと対話して、楽しんでください」と語っていたが、1コーナーから見ていて、「見事にクルマと対話しているなぁ」と側から見ても感じるほど、参加者全員が丁寧かつキレのいい走りをしていた。
MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラム「バーチャルからリアルへの道」の様子 画像はこちら
午前午後で実車を使った走行を行い、参加者が講師陣からアドバイスを受けたところで、それが終了したらいよいよ最終選考の面接が、7人ずつに分けてられてスタート。ここで得た情報や人間性をもとに、今年のMSPRから出走する選手たちを、マツダ側が選ぶことになる。
しかし、ゲーム内でタイムアタックをし、コースでもタイムやデータを収集しているのに、なぜ面接をするのだろうか? 速いだけじゃなダメなのだろうか? その理由を関係者に聞いてみた。
「この活動は、ゲームからF1やスーパーGTに行こう!……ではなく、まずはクルマ好きの仲間を見つけてクルマを楽しもうぜ。というのが主軸なので、タイムはそれほど重視してないんです。それよりも、人間性が何よりも大切だと思ってます。これは参加者にも常にいっており、1泊2日の間でペアを組んでもらっていますが、参加者たちにどんな立ち回りをしているか、自己中心的になっていないか、広い目をもって周囲を常に気にかけられるかなどなどを見ています。人間性>実力というのを大切にしているんです」と語ってくれた。
MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラム「バーチャルからリアルへの道」の様子 画像はこちら
また、より多くの人にクルマやモータースポーツの楽しさを知ってもらいたいという想いもあり、マツダはここ数年で、さまざまな形でモータースポーツの間口を広げる活動をしている。
比較的エントリーしやすいマツ耐や、初心者向けジムカーナイベント、「MAZDA SPIRIT RACING GYMKHANA EXPERIENCE」をフックに、その後はロードスターパーティーレースなどにステップアップし、そこからさらに上のカテゴリーである、スーパー耐久へ行くことも、マツダとしてチームを持っているので夢ではない……という体制を取っている。
さて、最後のイベントである面接会場は、足を踏み入れたら就職活動時並みに張り詰めた空気感となっていた。面接官からは、「あなたの強みは?」、「どんなレーサーになりたいですか?」、「今日走ってみて、バーチャルと現実の違いは何を感じましたか?」などなど、1人ひとりに質問をして、それに参加者は都度答える。
参加者の多くは、本気でモータースポーツに取り組みたいと思っている人ばかりなので、ゲームがきっかけで、マツダのサポートのもと、夢を追うチャンスが与えられるともなれば、こんな機会はそうそう巡ってこない。人生が大幅に変わる可能性さえあるだけに、その返答に気持ちがこもっている。みんな全力投球だ。
MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラム「バーチャルからリアルへの道」の様子 画像はこちら
なお、参加者のほとんどは社会人なので、「レース前後に休みは取れますか?」、「シムを使ったトレーニングには来られますか?」といった質問もあった。今回の参加者は、北は北海道、南は大阪までに及んでいたが、会場までの交通費は自腹なんだそう(それは選手になったあとも変わらず)。なので、そういった面も前もって確認していた。もちろん、参加者全員「問題ないです」との回答。
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面接を終えたあとは、チャレンジプログラムを修了したことを讃える盾が参加者全員に送られた。2025年のMSpRからマツ耐に参加する選手は誰になるのか、結果発表は5月7日(水)を予定している。
このチャレンジプログラムからマツ耐に参戦し、その後パーティーレースに自ら参加し、最終的にはスーパー耐久における最高峰クラス、ST-Xにまで上り詰めた人も実際にいるそう。
六畳一間からレーサーへの夢を叶えるマツダの活動に、今後も注目したい。
MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラム「バーチャルからリアルへの道」の修了証 画像はこちら