
この記事をまとめると
■クルマのエンジンはガソリンと空気を混ぜて燃焼させてパワーを得ている
■空気と燃料の割合を空燃比という
■出力を考えるなら燃料濃いめで燃費を考えるなら薄めだがやりすぎるとエンジンを壊す
空燃比ってなに?
ウイスキーや焼酎の水割りに、「濃い」「薄い」という表現があるように、アルコールではなくクルマの燃料にも「濃い」「薄い」がある。
クルマの場合は、ガソリンの成分の濃淡の話ではなく、燃焼室に入る混合気の燃料と空気がどんな割合で混ざっているかということを指している。
つまり、空気燃料比、いわゆる空燃比のことだ。空燃比とは、混合気に含まれる空気の重量を燃料の重量で割った数字で、エア/フューエルレシオ、略してA/Fとも呼ばれている。
この空燃比、日本のレギュラーガソリンでは14.7:1がひとつの基準となっている。これは理論計算上、燃料が完全に燃焼するといわれる割合で、空気が14.7g、ガソリンが1gの混合気を理論空燃比というのだ。
そして、この理論空燃比よりガソリンが多い状態を「濃い(リッチ)」といい、少ない状態が「薄い(リーン)」となる。
昔のキャブレターの時代は、温度や気圧に合わせてニードルをいろいろ調整し、燃焼しやすい空燃比に合わせるよう苦心した。
また、レーシングカートの選手なども、走りながらキャブレターを調整し、もっともパワーが出る空燃比を見つけることが重要だった。
しかし、現在ではキャブではなくインジェクターとECUで空燃比を調整するようになっているので、そうした苦労もなくなり、黙って理論空燃比(14.7:1)に設定しておけばいい……ような気がするが、空燃比の世界はなかなか奥が深く、一筋縄ではいかないのが現実だ。
というのも、理論空燃比はあくまで理論計算上の数字であって、実際に火炎温度がもっとも高くなるのは、A/Fが13.5~14.0と理論空燃比よりリッチ(濃い)なとき。そして、もっともパワーが出るのは12.5~13.0。これで燃焼速度がMAXとなる。
つまり、ガソリンが少し濃いときのほうが、よく燃えるというわけだ。
だからコンピュータチューンでパワーアップさせるときは、A/Fをこの数字に近くしてやる。とくにレーシングカーではドライバビリティが重要なので、パーシャル領域でもっとも出力が出るA/Fにセッティングするのがチューナーの腕の見せ所。
反対に燃費のことを考えると、燃料は理論空燃比より薄いほうが望ましい。
数字でいえば16.0前後のとき、燃料消費率が1番低くなるので燃費は向上。しかし、燃料が薄いということは、空気が多く、その分NOx(窒素酸化化合物)が出やすくなり、燃焼温度も高くなりやすく、ノッキングやエンジンブローの原因にもなる。
要するに、空燃比は濃くてもダメだし薄くてもダメなのだ。
人間だって、体調や気温、疲労具合でラーメンのスープや水割りの濃い目を好んだり、薄目を好むときがあるように、エンジンもエンジンの都合で濃い目、薄目を望むときが違うので、それに合わせてA/Fをマッチングさせるために、賢いコンピューター、精度の高いエアフロメーター、霧化のいいインジェクターが求められているのだ。