体験したからこそ気づいた自動運転の安心感と課題
試乗体験で使用したアプリはまだ試作ではあるが、乗車地と行き先指定などを操作していくとクルマが配車される。この辺りの流れはWEB CARTOPの動画をご覧いただきたい(https://www.webcartop.jp/2025/04/1590190/)。
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とくに印象的だったのは、自動運転の走りそのものとAIの判断力の高さとスピードだ。加速と減速にムラはなく、運転がとても上手いプロ中のプロドライバーに運転をしてもらっているほどに一貫して滑らかな操作だった。法定速度を遵守した走行であるが、法定速度までスムースに素早く加速を行うため、ゆっくりと走っている印象は感じない。
また、カーブではそのカーブのきつさに合わせて走行ペースを調整したうえで進入し、曲がり終わるタイミングでタイムラグなくスムースにすぐに加速するため、不安感や違和感はなく安心して乗ることができた。やはり出足の素早さはストレスフリーでありながら、円滑な交通の流れを作る大事な要素なんだと改めて実感した。
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車内に用意されたモニターには、AIが判断した自動運転進行ルートが青いラインとして表示されるが、その裏では常に次の動作のタイミングを予測し見計らっているのだという。たとえば、交差点で右折をする場合には信号、停止線、歩行者に対向車といった非常に複雑な要素が絡み合うなか安全確認を行い、すべての安全が確認できなければ右折できないようプログラムされている。
もちろん歩道の前後にも安全確認ラインが設けられているため、駐車場から歩道を跨いで一般道へ合流する際には、歩道手前と一般道手前などといった複数のポイントで必ず一旦停止を行い、安全管理を徹底するシステムとなっている。安全確認が取れるまでは慎重に動く一方で、安全確認が取れると素早く次の行動に移るため、高い安心感が得られたことが印象的だった。
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いい点ばかりを挙げてきたがもちろん課題も確認できた。まずは自動運転システムの安定化だ。まだ新しくスタートしたばかりのシステムと考えれば、当然不測のエラーなどが起きやすい。今回も試乗がスタートするまでにある程度の時間がかかってしまったが、これからの実証実験でマイルを稼ぎ、本稼働するまでにエラーを出し切れば成熟されるはずだ。つまり、現時点ではさほど問題とは感じないのが私の考えだ。競技も同じで、いかに本番前の事前段階で問題を解消できるかが大切だからだ。
私が問題だと感じたのは自動運転システムなどではなく、自動運転車を取り巻く環境なのだ。4kmの試乗コースのなかで唯一実験車がスタックしそうになったシーンがゴール目前の迷惑路上駐車への対応だった。
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それは中央分離票(オレンジのポール)がある、ゆとりのある片側1車線ずつの道路環境において、路上駐車したクルマの位置が問題だった。実際はバスがギリギリ通れるほどのスペースだったので、慣れたドライバーであればゆっくりと通ることはできる。ただ、自動運転システムの安全マージンが、この幅ではギリギリ安全が確認できず通過できないと判断してしばらく止まってしまったのだ。当然これは路上駐車したクルマが原因なのは明白だ。結果として駐車していたクルマが状況に気付き駐車位置を動かしたために自動運転が再開することができた。
道路交通法が遵守された優秀な環境だと自動運転サービスは案外すぐに実現できるのではないだろうか。しかし、そこに人間の間違った判断や自己中心的な感情が入り込むと一気に状況が複雑化してしまう。実際、事故や渋滞の多くに人が原因となることが多い。まずは自動運転車が実証実験を始めていることが広く認知される必要があり、周囲からも自動運転車であると可視化する工夫が必要だと感じた。今回の試験車ではルーフに設けられたセンサー類が特徴的だとはいえ、文字から自動運転車と認識できる要素が少なく、フロントデザインからでは一般車との見わけが難しく感じた。歩行者や他車との円滑な関係構築のために、タクシーと同じように自動運転車とひと目で分かる視覚的表現が重要になるだろう。
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自動運転システムとしては私の想像以上にスムースで正確な制御が行われており、無人車による送迎サービスは現実的なレベルにかなり近づいていると感じた。地域によってはドライバー不足や高齢化は深刻化している。そんな状況を大きく打開する可能性を秘めている自動運転には私自身も大きな期待を持っている。ドアtoドアが可能となるレベル5の自動運転時代までは時間がかかるかもしれないが、日本の未来に大きな助けとなる自動運転技術にさらなる期待をもっていきたい。