この記事をまとめると
■AT車のシフトには「P」「D」以外にも特定の状況向けのレンジが存在する
■「S」や「L」「B」などはエンジンブレーキや駆動力を最大化するために有効
■EVでは「B」や回生ブレーキの調整が鍵となり、効率的運転の重要な要素となっている
見慣れないシフトレンジの意味を正しく理解しよう
AT車において、「P」、「D」、「N」、「R」といった基本的なレンジのみを使用するドライバーが多くなっている。しかし、レンタカーやカーシェアでいつもと違うクルマに乗って、シフトレバーに「S」、「B」、「L」、「2」といった文字が並んでいて、戸惑った経験のある方も多いだろう。
これらのレンジは、特定の状況において車両の性能を最大限に引き出すために存在する。今回は、普段あまり使わないこれらのギヤの役割と、どんな場面で活用すると効果的なのかを解説していく。
AT車のシフトレバーに並ぶ文字の意味を理解する
AT車のシフトレバーにはさまざまな文字や数字が並んでいるが、これらはすべて特定の「レンジ」を表している。もっとも基本的なレンジは「P(パーキング)」、「D(ドライブ)」、「N(ニュートラル)」、「R(リバース)」の4つである。これらは多くのドライバーが日常的に使用しているため、今回は簡単な説明にとどめる。
AT車で一般的な4つのシフトポジション画像はこちら
パーキングは駐車時に使用。ドライブは通常の前進走行時に使用し、自動的に最適なギヤが選択される。ニュートラルはエンジンからの動力が車輪に伝わらない状態で、駆動にロックはかかっていないため坂道では自然に動いてしまうことがある。リバースは後退するときに使用するバックギヤである。
しかし、AT車にはこれら以外にもさまざまなレンジが用意されていることが多い。「2」や「S(セカンド)」は、メーカーによって表記は異なるが意味するところは同じで、2速ギヤに固定するためのものだ。
「2」や「L」レンジを備えたATセレクター画像はこちら
とくに上りの坂道走行で威力を発揮する。ただし、「S」はメーカーによっては「スポーツ」を意味し、スポーツ走行向けの変速制御になる場合もある。
「L(ロー)」は1速、つまりローギヤに固定するためのレンジで、より強い駆動力や強力なエンジンブレーキを必要とするときに使用する。また、近年のハイブリッド車やEVによく見られる「B(ブレーキ)」は強いエンジンブレーキを利かせるためのレンジである。これはとくに下り坂での減速時に活用される。「M」は「マニュアル」を意味し、ドライバーの意思で変速できるモードだ。
知っておくと便利な各ギヤの活用シーン
普段使わないレンジでも、状況に応じて適切に使用することで、より安全で快適なドライビングを実現できる。たとえば、長い下り坂を走行する際には、ブレーキペダルを踏みつづけることでブレーキシステム全体が過熱し、ブレーキが利きにくくなるフェード現象やベーパーロック現象が発生する危険性がある。
このような状況では、「D」から「2」や「S」にシフトを変えることでエンジンブレーキを強く利かせ、フットブレーキの使用頻度を減らすことができる。さらに急な下り坂では、「L」や「B」にシフトを変えることで、より強力なエンジンブレーキを得ることができる。
Bレンジを使用するイメージ画像はこちら
また、長い上り坂を走行する際にも、これらのレンジは有効である。Dレンジのままだと、車速が低下するたびにキックダウンが頻繁に行われることで、エンジンの回転数が頻繁に変わってしまい、加減速がギクシャクしやすくなることがある。
このような場合、「2」や「S」にシフトを変えることで、ギヤを固定し、車速を安定させることができる。これによりスムースな走行を維持しつつ、エンジンへの負担も軽減できる。
長い上り坂を走行するイメージ画像はこちら
雪道や凍結路面などの滑りやすい道路状況では、通常の「D」」レンジよりも「2」や「S」レンジを使用することが推奨される場合がある。これは、低いギヤを固定することで急激なトルクの変化を抑え、タイヤのスリップを防ぐためである。
一部の車種には「スノーモード」が搭載されているが、そのような機能がないクルマでは、2速発進などの手法が有効である。ただし、とくに雪が凍結し、ツルツルになっているアイスバーンの状態ではアクセルペダルを強く踏み込まないよう注意する必要がある。タイヤが急激に空転して、クルマのコントロールが難しくなるためだ。