
この記事をまとめると
■三菱が鴻海にBEV生産委託との報道が浮上した
■OEMのように受託生産でも委託元の品質基準を満たす必要がある
■自動車業界も家電のような変化が進む可能性がある
委託生産のカギを握るのは品質管理
先日、台湾の鴻海精密工業(以下鴻海)が三菱自動車(以下三菱)からBEVの製造を受託したとの報道が駆け巡った。海外メディアでは日本発のニュースとして紹介し、鴻海の劉会長はこの件についてノーコメントとし、三菱自動車もこの件についての公式な発信は行っていない。
仮にこの報道が真実だとしても、鴻海の生産するBEVがそのまま三菱車として販売されることはないだろう。2000年には、三菱は当時のダイムラークライスラーと資本提携関係となった。そして、その翌年2001年に、自社生産の軽自動車となる初代eKワゴンがデビューした。
そのデビュー当初、「クオリティゲート」という言葉が頻繁に使われた。これはダイムラークライスラーのノウハウによる品質管理システムのことであり、一般消費者向けのPRによって「メルセデス・ベンツも手がけるダイムラークライスラーのお墨付きをもらった軽自動車」というイメージが浸透し、品質の高い軽自動車という印象も根づいた。そして、そもそも完成度の高いクルマでもあったので大ヒットした。
ダイムラークライスラーだけではなく、各メーカーは独自の品質管理システムをもっている。2002年には日産初の軽自動車として、初代スズキMRワゴンのOEM車の日産モコがデビューしている。これは単純にMRワゴンの顔違いが出たというだけの話ではなく、日産としての品質管理基準をクリアするために、スズキが得たものは多かったと聞いている。
このように、OEMであっても供給先の品質管理基準をクリアする必要があるので、仮に鴻海が三菱からBEVの委託生産を請け負ったとすれば、それは三菱の基準を満たしたモデルとなる。その意味では鴻海側のメリットは大きいといえるだろう。
まだ中国車がBEVばかりではなかったころ、上海モーターショー会場内に、車名プレートをつけていない展示車を置くブースがあった。そこは車両開発までを行い、あとは生産するだけの状態で完成車メーカーに設計図面などを販売する会社のブースであった。
中国には、数えきれないほどの完成車メーカーが当時も存在していた。ただ、中堅以下のメーカーのブースをみると、どこも似たようなモデルが展示されていた。そのようなメーカーでは開発部門をもたず、前述したような企業から設計図面などを購入し、外観などを少し変えて生産するだけというところも多かった。開発コストがかからないので、車両価格もかなり安くなっていたのを覚えている。
家電の世界では、たとえ日本メーカーの製品であっても、自社で開発したものではなく、EMS(受託製造企業)で用意されている製品に「お墨付き」を与えて自社製品としていることは珍しくない。今回の三菱と鴻海に関する報道を見て、自動車にもいよいよ家電業界のようなことが始まるのかなぁ、などと考えてしまった。
見方を変えれば、これから開発しようとしている製品において、すでに海外メーカーで優れたものがあるのならば、委託生産とするのは効率のよい話でもある。同じBEVでも、量販普及モデルでは委託生産車として、上級BEVに開発資源を集中して自社開発することで「純日本メーカー製BEV」というプレミアム性をもたせれば、国内だけではなく海外でも広く販売することができるだろう。
すでにICE車では、メーカーの現地子会社製とはなるものの、インドやタイ生産の完成車を輸入して販売する動きは目立ってきている。委託生産はその一歩先のことと考えれば、不安に思うことはないといえよう。