激遅にも程がある! 6.3リッターV12搭載なのに最高速24km/hの「本物のフェラーリ」ってなにもの?

この記事をまとめると

■遅いフェラーリとして208が有名だが最遅モデルとしてF12Tdfプロトタイプが存在する

■6.3リッターのV12搭載ながら試作品のため最高速は24km/hに制限

■遅さに希少価値を見出され制限が解除されないまま高値で取り引きされている

世界一遅いフェラーリは208ではなかった!

 フェラーリ史上、もっとも遅いモデルは2リッターV8エンジンを搭載した208GTB、もしくはディーノ208GT4と相場が決まっていました。なにしろ、150馬力程度のパワーしかもたされず、3リッターの308が250km/h出せるのに対して215km/hという情けないほどの最高速度。

 ところが、上には上というか、下には下がいるもので、なんと最高速24km/hというフェラーリを発見。しかも、伝家の宝刀6.3リッターV12を搭載しているのにこの遅さ。史上最遅フェラーリとはどれだけ情けないクルマなのでしょう。

 2012年にそれまでの599GTBフィオラノの後を継いだV12をフロントに搭載し、後輪を駆動するトップ・オブ・フェラーリとして発表されたF12ベルリネッタ。車名のベルリネッタは512BBなどと同じく、クーペを表すのと同時に車名の一部であり、F12Bと呼ぶ史家もいるようです。また、登場当時はモンテゼーモロ社長がフェラーリの収益を大いに増やしていた時期でもあり、市場もF12ベルリネッタを熱狂をもって迎えたものでした。

 それゆえバリエーションも数多く、サーキット仕様のTdFをはじめ、タルガトップのTRS、北米向け限定車のSPアメリカ、大昔の275GTBをモチーフとしたカナリヤイエローのSP275 RW コンペティツィオーネなど多岐にわたるもの。そんななか、フェラーリはTdFを本格的なレーサーに仕立てようとテスト車両をこねくりまわしていました。北米での大人気にあやかって、F12Tdfのワンメイクレースを企んでいたとする噂もあります。

 で、2014年にアメリカでお披露目されたのがF12TdFプロトタイプでした。基本的にはライトチューンと呼べる内容で、6.3リッターV12と7速デュアルクラッチオートマチックトランスアクスルはそのままに、カーボンセラミックブレーキやカーボンファイバー製のボンネット、いくらか小型化されたリヤクオーターウィンドウの追加といったメニュー。

 それでも、プロトタイプは110kgほどの軽量化を果たしており、TdFの名に恥じないサーキットバージョンへと仕上がったという次第です。

 このプロトタイプは後に北米のディーラーに「展示用」として販売されました。むろん、限定生産(799台)のF12Tdfのサンプルとしてですが、ここにマラネロは良心的というかなんというかある種の制限を課したのでした。それが、最高速15mph(約24km/h)制限というとんでもない代物。フレームにわざわざ「NOT STREET REGAL」と刻まれ、なにがなんでも走らせない、アクセル全開にさせないようにしたのです。

 たしかに、能天気なアメリカの大金もちならプロトタイプを手に入れた瞬間、アクセル開度100%でぶっ飛ばしそう。いくら、フェラーリが作ったクルマとはいえあくまでテスト車、何があっても保証はできませんからね。

 というわけで、6.3リッターのV12を積み、フラットシャシーまで装備しながらも最高速は24km/hという珍車が生まれてしまったのです。手に入れたあとでマラネロに制限解除してもらえば? という思い付きはどうやら庶民的なようで、大金もちは「24km/hしか出ないからこそ価値がある」と考え、この状態のまま高値で売買されているとのこと。

 まさか、フェラーリの「遅さ」に価値が出るとは、さすが多様性がまかりとおる世のなかです。


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石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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