最高速まで達する区間もあれば腰の高さの水に浸かることも
──では、AXCRの見どころというか、ラリーとしての特徴を教えてください。
増岡:パリ・ダカールに比べるとコンパクトで、人口密度も多いところを走ることが特徴です。さらにコースでいえば、農園とかプランテーション地帯の直角コーナーの多いところから、南の熱帯雨林のジャングルなど、四駆としての走破性も求められます。また、路面がスリッピーで距離を合わせづらかったり、突然のスコールで前がまったく見えなくなるほどの雨も降れば、そのせいで途端にドロドロにぬかるんだりするなど、走る場所は多岐にわたっていますね。
──聞いているだけで過酷さが伝わってきます。
増岡:ドライバーから、ワイパーの動きを倍ぐらい速くできないか? といった要求も上がってくるほどです。あとは酷暑なので、当然熱対策も必要です。そうして得られたデータから、市販車にフィードバックできる要素は多々あると思います。

──速度域としてはいかがですか? やはりジャングルとかは割とゆっくり進んだりとか?
増岡:セクションによってはミラーが樹にこすられるほど狭い道もあれば、最高速、Vマックス域までいくところもあります。ウチは2.4リッターなんですけど、トヨタさんは2.8リッター、いすゞさんは3リッター。パワー勝負では排気量が大きいほうが有利なのですが、そのなかでエンジンパワーと信頼性をどう磨いて、ライバルチームと闘うか。会社の看板を背負う以上、やはり大排気量に負けないぞという、そういう克服しなきゃいけないチャレンジも面白いところです。
──岩場や泥濘路などクロカン4駆としての性能だけではダメなんですね?
増岡:はい、ハイスピード区間では、いわゆるハンドリングやドライバビリティなども重要になるので、どちらかというわけではなく、トータルの性能を上げる必要があります。

──完走自体も難しいようなラリーですよね?
増岡:運営のバックアップ体制がいいからアマドライバーの方も多々出走しているんですが、ステージによっては意外とジムニーが上位にいたり。あと昨年はバイクが先にスタートするんですが、登れないような岩山があり、コースのあちこちにバイクが倒れているところを我々のクルマが抜けていったり。十勝のテストコースで岩場を走るなどしてクルマを鍛えていますが、不確定要素や運が左右する部分も大きいラリーです。だからクルマに求められる要素はもう山ほどあって、何を準備してもまだ足りないぐらいです。
──シュノーケルも備わっていますが、水に浸かることも?
増岡:渡河で腰ぐらいまでの高さの水に浸かりますし、クルマが浮くぐらい深いところもありますよ。日本だと田んぼの間の道は高く作られて、田んぼのほうが低くなっている。でも向こうは逆で、雨でも作物をやられないように道のほうを低くして、そこで排水するような感じなんです。なのでスコールが降るとそこが泥の川のようになりますから。

──車両自体はいわゆる市販のトライトンと何が違うのでしょうか?
増岡:トレッドを広げていますね。あとは市販モデルはリヤがリーフスプリングなのですが、コイルスプリングに変更しています。これは路面追従性を求めたもので、コイルスプリングのほうが伸び縮みの速度が速いんです。それから、2022年と2023年はトランスミッションは市販車そのままのMTを採用していたのですが、2024年から競技用ドグミッションに換装しています。

──実車を見たところ色々な装備が積んでありました。とくにAXCRならではというものはありますか?
増岡:ウインチですね。
──確かに荷室の後ろに装備してありました。
増岡:あれは前にも移動して付けられるんです。泥沼のような場所にハマって動けなくなった場合、ウインチを樹木などに引っかけて引っ張ってクルマを動かします。ウインチの長さは数十メートルはありますね。チームによっては船のアンカー(錨)のようなものを積んでいるクルマもあります。泥濘地だと引っかけるものがないので、アンカーを埋めてウインチで引っ張るためです。

──陸でアンカーとは想像を絶する世界ですね! ところで我々に馴染みのあるラリーでは事前にコースを見るレッキがありますが、AXCRではどうなっているんでしょう?
増岡:レッキはないですね。コースも前夜にコマ図が渡され、それを見てチーム内で作戦を練っていく感じです。
──えっ、前夜ですか?
増岡:こちらはサポートカー用のコマ図ですが、こういったものが運営側から前日に渡されます。ですのでナビゲーターの役割も大きいラリーなんですね。

──クルマに、いわゆるGPSナビのようなものが付いていたりはしないんですか?
増岡:一般的なナビは禁止です。携帯電話のような通信機器も車内での使用はできません。装備としてあるのはGPSを使って距離を示すものだけですね。車両の位置情報をつかむ機器は積んであるんですが、これはサポートチームが場所を把握できるものではなく、運営側が不正をしていないか監視する目的で使用されています。

──バンコク国際モーターショーで2025年のカラーリングを施したトライトンを拝見しましたが、参戦体制は?
増岡:もちろん決まっているものもありますが、まだ発表できません(笑)。ただ、昨年とそんなに変わらない感じで闘うと思います。

──もちろんAXCRも有意義だと思うのですが、ファンも我々もより大きなステージを期待してしまいます。この先、よりグローバルなモータースポーツを展開していくことは?
増岡:次っていうと、もうあの、みんなが知っているあのラリーになっちゃうんで(苦笑)。
──あの……ダカールみたいな(笑)。
増岡:そうですね、もちろんステップアップも考えますけど、今はとにかく足がかり、足場をアジアに築いて根づかせて、もっともっとラリーアートの活動を知ってもらうために、アジアで頑張っています。まずはAXCRで優勝することが目標です!

──日本ではまだAXCRがそこまで浸透していないですが、知れば知るほど興味が湧いてきます。楽しみにしています。ありがとうございました!
タイをはじめとする東南アジアの道での過酷なラリーを通じて、三菱のクルマとそれに携わる人たちは、さらに強く鍛え上げられ、進化しているのだ。
AXCR2025は、2025年8月8日にタイのパタヤでセレモニースタートを行い、8月16日にカンボジアのプノンペンでフィニッシュセレモニーが行われるという日程だ。WEB CARTOPでも情報をお伝えしていくので、トライトンの活躍を楽しみにしてほしい。