プライスがパフォーマンスを保証しているとは限らない
アジアン・タイヤ=激安タイヤ=粗悪なタイヤ。そうしたイメージをおもちの方も、少なからずおられることだろう。たしかに昔はそうした傾向がちょっとばかりあったから、口伝えで広がって、そのイメージが残ってるのだと思う。でも、そろそろそうした食わず嫌いの先入観は捨てた方がいいんじゃないか? と感じている。
というのも、とくにここ4〜5年の間に試乗をしたアジアンブランドのタイヤ、そして欧米ブランドや日本ブランドのアジア生産のタイヤなどの印象は、おしなべて悪くなかったのだ。もちろん上には上があるし、上を見たらキリがないことも理解はしてるけど、試したいずれもが十分に及第点といえるレベルだったし、自分のクルマに合うサイズがなくて諦めたけど友人にオススメして喜ばれたりしたこともある。いや、待った。そういえば僕のところの古いチンクエチェントに履かせてるホワイトリボンはアジアンブランドのタイヤで、何ら不満がないどころか結構気に入ってたりもする。
アジア圏は、タイヤの一大生産エリア。誰もが名前を知ってるさまざまなブランドの生産工場や開発センターなどが、各国に次々と作られ、活動の規模を大きくしてきた。そうしたなかで育まれてきた技術が活かされてきたり、日欧米からの技術者の移籍があったりしたことも、大きかっただろう。そうした流れに比例するようにして性能も品質も全体的に大きく底上げされ、現在に至る、なのだ。
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リーズナブルな価格で販売されてるタイヤが多いのは、もちろんテキトーな製品をチャッチャと作って流通させているからではなくて、いいことかどうかは別として人件費が安いこと、そして天然ゴムの世界の総生産量のおよそ4分の1を東南アジアでまかなわれるため、素材の調達にかかるコストが格段に安いこと、などによる。
自分のここ数年の体験とそうした事情から、僕のなかでのアジアンタイヤのイメージは、“安かろう悪かろう”じゃなくて“安かろう結構よかろう”へと完全に切り替わっている。
そして、そのイメージをさらに上書きするタイヤを知ってしまった。今回テストした「マックストレック・エクストリームA/T」である。
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マックストレックという名前に聞き覚えのない方もおられるかもしれないが、中国の駿鴻(ジュンホン)というタイヤメーカーが展開しているブランドのひとつだ。駿鴻は2006年に誕生した比較的新しいタイヤメーカーではあるのだが、欧米と中国で計90項目以上の特許を登録し、乗用車はSUV/MPV用に30以上のパターンと800以上のサイズを開発し、世界の90数カ国での販売を展開するほか、中国のさまざまな自動車メーカーにOE供給もしている。ポッと出などではない、信頼性の高さを裏付けるお話である。マックストレックだけでもこれまでに20以上のパターンと500以上のサイズを開発してきており、年間生産量は700万本にまで達しているという。
エクストリームA/Tは、その名のとおりA/T=オールテレイン・タイヤ。M/T(=マッドテレイン)やR/T(=ラギッドテレイン)ほどヘビーデューティじゃないけどオフロードもいける、という位置づけにあるタイヤだ。このタイヤにはメーカー自身のお墨付きといえる「M+S(マッド&スノー)」だけじゃなく、非営利の国際規格設定期間の世界最高峰、ASTMの試験をパスした証である「スノーフレーク」マークも刻まれている。
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オール・テレインのスノーフレークマーク付きと聞くと、全方位的にそこそこの性能を発揮できる八方美人的なタイヤをイメージする人が多いことだろうけど、世界でもっとも信頼度の高い第三者機関が認めた全天候型、全路面型のオールマイティなタイヤであるということに相違はない。もちろん日本国内で冬用タイヤ規制が出ていても、走ることが許される。
というわけで、ジムニーに175/80R16サイズのエクストリームA/T(価格8400円送料税込/本、2025年4月現在)を履き、一般道。高速道路、泥濘込みの悪路や砂利道といったオフロード、そして雪道といったさまざまなステージで「エクストリームA/T」を試すべく都心をスタートしたのだけど、すべてのステージを終えて、僕はちょっとばかり混乱しながら喜んでいる、という複雑な気分でいる。すべてのステージで、予想していたより遙かに印象がよかったのだ。本当に1本4790〜8400円(送料税込、2025年4月現在)という、毎年交換しても惜しくないような値段で売られてるタイヤなのか? と呆気にとられてたりする。
マックストレック・エクストリームA/Tのトレッドを確認する嶋田智之さん画像はこちら
パッと見では、ほかのオールテレイン・タイヤと比べて、あまり悪路や雪道を睨んだギラギラとしたヤル気のようなものは感じられない。よく見れば溝が全体的に深く刻まれていたり、遠心力との相乗効果で巧みに排土・排雪・排水しそうなパターンを採用していたり、表面に細かな切れ込みがたくさん入っていたりと、オフロードや雪道に効きそうなディテールをもってはいる。
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けれど、そのツラ構えはオンロード・タイヤのようとまではいわないまでも、ちょっとクラシカルな雰囲気を漂わせるフツーのタイヤ、といった印象だ。トラディショナルなスタイリングのジムニーに、よく似合ってるな、と感じたものだ。
マックストレック・エクストリームA/TとオフレッサーOP-S5を履いたスズキ・ジムニー画像はこちら
それにはホイールの存在も大きいぞ、と思った。エクストリームA/Tと組み合わせられていたホイールは、「オフレッサーOP-S5」(価格1万1200円送料税込/本、2025年4月現在)。マックストレックを扱うオートウェイの自社ブランド品で、奇をてらったところのないデザインの星形5本スポークだ。
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そのトラディショナルな雰囲気、そして汚れの目立たないマットな色調が、やっぱりジムニーというクルマにすっきりとマッチしてるように感じられる。このタイヤとホイールのコンビネーションは、走るステージに突入する前段階のルックスというステージで、まずは好印象だった。