「R.S.」のロゴにルノー・スポールの復活を期待
「なぜそんなことが可能か?」といえば、5ターボ3Eはインホイールモーターを採用した後輪駆動車だからだ。ミッドシップとはいえリヤ車軸上にはインバータやECU関連のモジュールが載っているのみで、駆動モーター自体は左右リヤホイール内に収められている。
ルノー5ターボ3Eのりやホイール画像はこちら フツーの内燃機関を積むクルマなら、最大トルクはクランク軸のそれが表示され、トランスミッションによって減速比やギヤ比と適切に組み合わされて、走行速度に応じたカバレッジの範囲内で路面に伝わることになる。ところが、インホイールモーターでは原動機がホイールを直接にまわすことになるため、従来のリデューサーや変速ギヤによりけりのレシオを介さずとも、モーターの制御ひとつでプログレッシブにもデグレッシブにも駆動は伝わることになる。もちろんモーター制御は1000分の1秒単位で行えるから、数ミリ秒で最大トルクを吐き出すことも理論的には可能になる。
以上は極端なケース、例だが、5ターボ3Eはそう、駆動力の伝達速度や効率面で、恐るべきブーストをかけることができてしまう。あくまで車両姿勢制御プログラムと協調しながらゆっくり吐き出すこともできるので、通常走行ではそちら寄りの制御領域で走る乗り物といえるだろう。
ルノー5ターボ3Eの真正面フロントスタイリング画像はこちら 実際、今回はインテリアこそ公開されなかったが、シートはA110Rと共通するカーボンシェルのバケットシートでチェック柄のアルカンターラ張りにイエローのアクセントなど、テーマカラーはさまざまにカスタマイズオーダーが利くという。また、フルデジタルのメーターパネルやセンターディスプレイは5E-テックやアルピーヌA290譲りで、独自のグラフィックスキンによる専用の表示となっており、A290と共通のステアリングまわりには、回生ブレーキの効きを4段階、加えてドリフトアシストを弱中強の3段階で調節するボタンが備わっていた。
すると俄然、気になるのはシャシーだが、アルミニウム製のプラットフォームは専用設計で、70kWh容量のNMCタイプのリチウムイオンバッテリーもフロア下構造を担いつつ、カーボンコンポジットのボディによって重さは1450㎏に収まっている。バッテリーが500㎏以上を占めるにもかかわらず、この数値は相当に低重心かつ軽量といえる。
ルノー5ターボ3Eのフロントスタイリング画像はこちら インホイールモーターとしたことで、バネ下重量はそれなりに重いはずだが、開発を担当したアルピーヌのエンジニア、フレデリック・ローラン氏はこう述べる。
「ホイールトラベルやサスペンションの動きを妨げないバランスを鑑みながら、インホイールモーターを専用に作り上げていますから。ちなみにサスペンションは可変減衰力式ではなく、通常のコイルオーバーのダンパーです」
ルノー5ターボ3Eのフロントホイール画像はこちら 実際、電気モーターのローター径が増すとトルク、ローター幅が増すと出力が上がるのが前提だが、20インチのホイールの内側は目いっぱい、電気モーターのケーシングで埋まっていた。ブレーキディスクは450mmもの大径で、インホイールモーターの内側に備わっている。リヤフェンダーダクトからとり入れた空気は、これらを冷却する。
もうひとつ5ターボ3Eで注目すべきは「R.S.」、つまりルノー・スポールのロゴがリヤウインドウに貼られ、その復活を匂わせていたことだ。1980台の限定生産とはいえ日本でも2027年以降に発売することが決定され、右ハンドル仕様やCHAdeMO対応も見据えているという。
ルノー5ターボ3Eのリヤスタイリング画像はこちら 価格は未発表ながら、グローバルでのオーダー受注は始まっており、おそらくA110Rウルティムの26万5000ユーロ(約4300万円)ほどではないが、A110Rチュリニ(本国で10万6000€、日本で1550万円)との中間ぐらい、おおよそ2400万円ぐらいに落ち着くのではないだろうか。