新興国もBEVだけが解決の道じゃないと気がついた! BEV減速の裏にある「マルチパスウェイ」の効果 (2/2ページ)

電動化でどうにかなるとは到底思えない

 このクラスを狙って世界へ進出しているのが、現状では中国メーカー車となっている。それでもBYDオート(比亜迪汽車)のATTO3の国内価格は450万円からとなっているし、タイなどの東南アジアでは、「ローコストBEV」としてその割安感からも注目されている、NETA(哪叱汽車)のNETA Vですら、タイでの価格は54万9000バーツ(約241万円)となっている。

 もちろん、多くの国ではBEVの購入に対して補助金などのインセンティブを用意しているが、それでも現状ではBEVを購入できる層というのはある程度可処分所得に余裕のある層に限られるといった状況は、世界共通のように見える。

 つまり、BEV一辺倒でその普及を進めても一定価格帯以下のモデルとなると、もちろん生産コストとのかねあいとはなるものの、現状では「BEVで脱炭素」と目論んでも、結果的に広くBEVの普及が進まず、なかなかその達成も進まないということになるものと考えている。

 新興国では自国が経済成長するなか、それまで四輪車より圧倒的に多かった二輪車ユーザーを四輪車ユーザーへ転換させ、四輪車普及を進めようとしている傾向がある。しかし、BEVにこだわらなくても二輪車から四輪車への転換ということ自体「足踏み」状態になっているとのこと。

 これもスズキの新中期経営計画発表の席上で出た話なのだが、インドでも四輪車ユーザーがなかなか思うように増えないとのこと。つまり、同じようなパイのなかでユーザーの奪い合いが日々行われていることになる。

 しかも、その限られた(四輪車が買える)ユーザー層のなかでも、経済成長の過程で多様化も進み、モデルラインアップの多様化も進めなければならなくなっているように見える。そのような状況で「BEVを」といっても、価格が高いので、四輪車への転換というものへのスピードダウンをさらに招いてしまうだろう。

 政府がやや偏っているように見えるものの、あくまでもBEVは選択肢のひとつというのがインドの姿勢であり、長い目で脱炭素を考え、マルチパスウェイで段階的に脱炭素をめざすことが正しい方向性なのかもしれない。

 インドではかつて自国ブランドのタタモータースで「ナノ」という小型乗用車をラインアップしていた。当時の車両価格は10万ルピー(現在で換算すると約17.4万円)という信じられない低価格で販売されていたのだ。

 ターゲットは二輪車ユーザーとなっていたが、二輪車ユーザーが注目するほど魅力(コスパなども含め)がなかったり、ほかに諸問題も抱え、2代目終売からすでに7年が経とうしている。首都デリーであっても、いまではほとんど見かけることはなくなった。

 インドにおいては、近年の燃料費高騰もあり、二輪車や三輪車のほうがBEV化は進んでいるように見える。「BEV版ナノ」みたいなモデルが登場すれば、かなりインパクトが大きくなるのだが……。

 気候変動問題の起源を産業革命とすると、産業革命が始まったのは1733年とされているので、それから292年が経とうとしている。それなりに時間をかけて現状さまざまな問題が発生しているのだから、クルマにおいて「BEVがすべての解決策」として、さも「短期間で問題解決する」といったイメージ作りをしているようにも見える現状には、違和感を覚えざるをえないだろう。

 ただ、インドの首都デリーを2年ぶりに訪れると、路線バスや二輪車、三輪車のBEV化をはじめ、乗用車の多くはCNGを燃料にするなど、マルチパスウェイに取り組んだ結果、平日でも青空を取り戻すなど、少なからずその効果が出ていることは間違いない。

 まずは消費者が自然と受け入れることができる範囲で、それぞれに対応できる手段で脱炭素に取り組むことが大切なのだとインドで感じることができた。

 BEV普及が減速している現状は、一時的なBEVブームが終焉を迎え、「何をすべきか」と冷静に世界が物事を見つめ直す好機なのかもしれない。


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小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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