想像以上に走れる実力に感服
目標の変化と達成の瞬間
神戸を7時30分に出発したものの、単純計算で唐戸市場までは約6時間半の道のり。現時点では、ランチのラストオーダーに間に合わないことが判明した。せっかくの海鮮ランチが食べられないとなると、計画の見直しが必要だ。
「目的地はそのまま、あとは臨機応変に」。
とりあえず最終目的地は走りながら考えるとして、ナビは唐戸市場に設定したまま、残りの航続可能距離を常に意識しながら西へと進む。
山陽自動車道は意外な難所だった。起伏に富んだ勾配の激しい道のりに、燃費の伸び悩みを実感する。それでも徐々に回復し、やがてWLTCモードの公称燃費18.9km/Lを上まわるようになってきた。
それから数時間後、ついに山口県に入った。航続可能距離の表示を見ると、予想以上にもちこたえている。数値上、唐戸市場には十分な余裕で到達できる計算だ。
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そこで、新たな野望が芽生えた。
「もしや、九州までワンタンクで行けるのでは……」。
唐戸市場は昼食タイムを過ぎているし、ならばいっそのこと旅の目的を「ワンタンクで九州上陸」にアップデートしよう。ここで新たな目標を九州上陸にアップデートした。
九州へ渡る関門橋手前数キロの地点で、オドメーターの数字が夢のワンタンク1000kmの数値に近づいていく。
「999.7……999.8……999.9……そして1000.0km!」。
思わず声に出してカウントダウン。この達成感をクロストレックとわかち合った。山口県下関市内で、無事に1000kmの大台を超えたのだ。
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この時点での平均燃費は18.8km/L、残りの航続可能距離は40km。関門橋を渡れる余裕は十分にある。迷いなく九州へ向かう決断を下す。10kmおきにパーキングエリアがあるため、万が一の場合でも携行缶の20リットルがあれば安心だ。ガス欠ギリギリまで攻めることなく、適切なタイミングで予備燃料を入れる準備をしながら、九州への橋を目指した。
そしてついに、本州と九州を繋ぐ玄関口である関門橋を渡るときが来た。対岸に九州(福岡県)が見えてきた。橋を渡っている途中でナビが「福岡県に入りました」とお知らせする。またもやひとつ旅の節目を迎えてクロストレックと喜びを共にわかち合った(多分)。
達成感と新たな発見
関門橋を渡り、九州の地を踏んだ後は、不思議な安心感に包まれた。目的どおり無事に1000km走れたので、もはや数字を気にする必要はない。アイサイトXに身を委ね、ゆったりとした気もちで風景を楽しむ余裕が生まれた。
残りの航続可能距離が20kmほどになったところで、上毛(こうげ)パーキングエリアを見つけてピットイン。ここで念のため搭載したようやく携行缶から20リットルの給油を行う。このタイミングでの走行距離は1050km、平均燃費は18.9km/Lと、まさにWLTC値と同等の実力を発揮してくれたことになる。
こうして、「東京から九州までワンタンクで到達可能」という事実が証明された。
ドライブで使用した携行缶画像はこちら
ここで少し、長い航続距離の実用的なメリットについて考えてみたい。
昨年末、私は愛車のフォレスターSTIスポーツで北海道往復2500kmの旅に出た。その際、往復で6回もの給油を行った。タンクが完全に空になってからではなく、次の給油所までの距離を考慮しての予防的な給油も含めてだが、それでも6回の給油は旅の行程を組む上でのストレス要因となった。
フェリーの時間を気にしながら「今のうちに入れておこう」という思考に捉われる。もしこの旅がクロストレックS:HEVだったら、恐らく2〜3回の給油で済んだはずだ。ワンタンクで1000kmが「余裕」というのは、旅の自由度と安心感を大きく高めてくれる要素となる。
上毛パーキングでの給油を終え、次の目的地を決めた。パーキングから南へ50km、時間にして40分ほど走れば、人気の温泉地・別府がある。温泉好きとしては、ここまで来たからには湯に浸かって旅の疲れを癒したい。迷わず今宵の宿を別府温泉に決定した。
もちろん、この追加の50kmも20リットルの給油で十分にカバー。途中、別府湾パーキングエリアからの絶景に立ち寄り、九州上陸を果たした喜びをかみしめた。夕暮れの別府湾に沈む太陽を眺めながら、クロストレックとの長旅を振り返る。そんな感慨に浸りながら、温泉宿への道を進むのだった。
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温泉での休息と帰路への決断
17時30分、宿の向かいにあるガソリンスタンドで満タン給油を済ませてから、ようやく宿の駐車場へ。ここまでの総走行距離は1126.9kmに達していた。給油後のメーターには、新たに1120kmの航続可能距離が表示されている。明日は別府から一気に東京まで戻る計画だ。今宵は温泉を心ゆくまで堪能し、明日の長旅に備えて英気を養うことにした。
スバル・クロストレックS:HEVのメーター画像はこちら
3日目の朝は7時30分に宿を出発。しかし、すぐに東京へ向かうわけではない。宿から3軒隣にある行きつけの「鉱泥温泉」へと足を運んだ。朝8時30分から正午までの限定営業、シャンプーなどの石鹸類使用禁止という独特のルールを持つ泥湯だ。入浴と休憩を繰り返し、体の芯から温まるのがおすすめだが、今回は帰路のことも考慮して1セットのみで切り上げた。それでも、外に出ればアウターが要らないほど体がポカポカに。肌もすべすべになり、大満足の時間となった。
鉱泥温泉の看板画像はこちら
ここからいよいよ東京方面へ向かうのだが、もうひとつ寄り道を決断した。撮影のために、北へ50kmほど足を延ばして「角島展望台」を目指す。ドラマやCMでもよく使われる絶景スポットで、海上に伸びる角島大橋の美しさは格別だ。せっかくなので、このクロストレックとの写真を撮ることも新たな目的とした。
下関で高速を降り、ワインディングロードをひたすら走る。高低差はそれほどではないものの、片道50km、往復で100kmの追加距離が生じる。計算上は、これがなければ別府から東京近郊まで無給油で到達できたはずだが、この絶景は見逃せない。
結果は大正解だった!
角島大橋画像はこちら
雨の予報だったにもかかわらず、嘘のように晴れ渡る空(さすが晴れ女!?)。
コバルトブルーの海と青空のグラデーションを背景に、真っすぐに伸びる角島大橋が唯一無二の存在感を放っていた。納得のいく写真も撮影でき、心からの満足感に包まれる。
角島大橋とスバル・クロストレックS:HEV画像はこちら
撮影を終え、いよいよ帰路に就くためスバル恵比寿本社へのナビをセット。すると驚くべき数字が画面に浮かび上がった。
「999km」。
出発時の距離と同じ数字。この偶然に運命を感じながら、東京を目指した。
1000kmドライブのナビ画面画像はこちら
帰路の旅と燃費の進化
往路の経験を活かし、基本速度を80km/hにセット。アイサイトXの恩恵もあり、この時点での疲労感はほとんどなく、自分でも驚くほどだった。
時刻はすでに昼を過ぎている。途中の山口県内のパーキングエリアで、郷土料理「美東瓦そば」をいただいた。熱した瓦の上に美しく盛り付けられた蕎麦は、サービスエリアの食事とは思えない高いクオリティで大満足。この時点での走行距離は319km、平均燃費は驚異の21.0km/L。この旅で最高の数値だ。
美東瓦そば画像はこちら
角島大橋経由での下道走行、ストップ&ゴーの多い場面を経験しながらも、この燃費を出せたのは1日目の反省があったからこそ。往復で1000kmではなく、異なるルートで2回の1000kmチャレンジをしたからこそ、1度目の学びが活かせた。
その後も順調に東へと進むが、大阪に入った頃から疲れがピークに。安全を最優先し、1時間ほどの休憩を2度ほど挟む。鈴鹿、岡崎、静岡と各サービスエリアでエナジードリンクやコーヒーを補給しながら進み、ついに静岡県内で走行距離1000kmを達成。往路ほどの高揚感はないものの、また重要な節目を迎えられた喜びはやはり大きい。
しかし、ここでの残り航続可能距離は120kmほど。東京までの完全無給油は厳しいと判断し、神奈川県の足柄SAでの給油を決断。ここまでの走行距離は1080km、平均燃費20.6km/L、残り航続可能距離は50kmと表示されていた。
スバル・クロストレックS:HEVのメーター画像はこちら
計算上は海老名SAまでは行けるものの、深夜の走行で燃費を意識し続けるには体力と集中力が限界に近づいていた。日付は変わり、時刻は3時54分。長きにわたるワンタンクチャレンジはここに幕を閉じた。
まとめ「1000kmの先に見えたもの」
このチャレンジで得られた成果は単なる数字以上のものだった。
まず、クロストレックS:HEVの実力は確かなものだと実証された。公称燃費18.9km/Lに対し、最終的には20.6km/Lを記録。理論値を上まわる実走行燃費を証明できたのは大きな収穫だ。
そして1000kmの大台を片道で、しかも東京から九州まで無給油で走破できることが明らかになった。これは単なる数値上の達成ではなく、実用面での大きな価値をもつ。長距離ドライブでの給油回数減少は、旅程の自由度を高め、ストレス軽減にも働く。
スバル・クロストレックS:HEVのエンジン画像はこちら
また、アイサイトXの進化も実感した。
長時間の高速走行でも疲労軽減に大きく貢献し、とくに渋滞時のハンズオフやカーブ前速度制御は、安全性と快適性の両立に一役買っていた。加えて、燃費と運転の関係性についても新たな学びがあった。初日の120km/h走行と2日目以降の80km/h走行の燃費差は歴然。適切な速度設定と穏やかな加減速が、ハイブリッドカーの真価を引き出すことを身をもって体験した。
この3日間、1000kmを超える距離を2度も走破したクロストレックS:HEVは、単なる移動手段を超えた旅の伴侶となった。都会の渋滞から高速道路、山道、海岸線まで、あらゆる道をしなやかに走破するその姿は、まさに「行きたいところへ、行きたいときに」というSUVに求められるコンセプトに相応しい。
そしてなにより、この旅で得た風景と感動は、数字では表せない価値を持っている。唐戸市場から角島大橋、別府温泉までと、本来の目的を超えて広がった旅路は、クルマだからこそ味わえる自由と発見に満ちていた。
黒木美珠と角島大橋画像はこちら