顧客がほしいと思わなければそれは優れたものではない 一方で、販売やアフターサービスについては、「チームスズキ が商品に込めた想い・こだわりを丁寧に発信、ブランド価値を向上させ、商品価値に見合う適正な価格で商品を販売していきます」と述べ、値引きはもちろん価格設定自体もいたずらに低くしすぎない方向性を示唆。
スズキディーラーでの整備様子 画像はこちら
また、「お客さまに寄り添った営業活動により、新たなお客さまの獲得、代替とサービス売上の増加により利益を増やし、お客さまとともに成長していきます」と説明しており、販売・サービスの質的向上を起点として収益拡大を図る狙いが見て取れた。
こうした背景として大きいのは、やはり日本におけるフロンクスの成功体験だろう。スズキとしては異例なほど入念に実施された、日本仕様正式発表前のティザー告知や展示イベントなどが功を奏し、バックオーダーを抱えるほどの人気となっている。
スズキ・フロンクスのフロントスタイリング 画像はこちら
これらの施策によって、日本での販売台数を2024年3月期の67万台から、2031年3月期までに70万台にアップ。また、前述のとおりBEVを6モデル投入し、乗用車のパワートレイン比率をBEV20%、HEV80%にする商品計画を明らかにしている。
そして、スズキにとって核となるのが、最大のボリュームゾーンであり、最重要市場と位置付けるインドである。
インド国内にいたスズキ車 画像はこちら
その説明のなかで、鈴木社長は何度か「まだ届かない残りの10億人」というフレーズを掲げていたが、現時点でスズキの四輪車を購入できるのは、中間層以上の約4億人なのだという。この中間層が今後ますます増えていくとの見通しのなかで、初めて購入するクルマにスズキを選んでもらうべく、エントリーモデル商品作りの強化に取り組んでいくことを、とくに強調し説明している。
と同時に、「最大のセグメントとなったSUVと、今後伸びるMPVセグメントで商品力を強化」(鈴木社長)。また「お財布と環境に優しい製品をご使用いただくため」、BEVやHEV、CNG(圧縮天然ガス車)、CBG(圧縮バイオメタンガス車)、FFV(フレックス燃料車)などの選択肢を提示することも明らかにした。
ジャパンモビリティショー2025のスズキブースに展示されていたCBG車両 画像はこちら
そのために、現地法人であるマルチ・スズキの商品開発能力を高め、「インドのお客様の嗜好に合った商品をタイムリーにご提供する体制」を構築。販売においては、フロンクスやジムニーノマド、eビターラなどが属する上級チャンネル「ネクサ」と、幅広い層をターゲットにする「アリーナ」の役割をより明確化する。
インド国内のスズキディーラー外観 画像はこちら
そして、インドでの需要をまかないつつ、グローバル輸出拠点としての役割も担うべく、年産400万台体制構築を「何が何でも2030年に400万台にするのではなく、市場の状況を見ながら適切なタイミングで実施」していく考えを述べた。
それらの結果として、インド市場での年間販売台数を2024年3月期の179万台から、2031年3月期までに254万台にアップ、シェア50%を目指す。商品計画としては、BEV4モデルを投入し、全体のパワートレイン比率をBEV15%、HEV25%、CNG(CBG)35%、エタノール20%混合燃料対応FFV20%とする見通しだ。
ほかにも欧州、中東、アフリカ、ASEAN、パキスタン、中南米、大洋州(オセアニア)の各地域・国での四輪車事業戦略を紹介。トヨタとのアライアンスについても、「互いに切磋琢磨する競争者であり続けながら、イコールパートナーとしての協業を継続」していく意向を示している。
スズキが発表した中期経営計画でのトヨタとのアライアンス関係についての資料 画像はこちら
一方、とくにBEVやエタノール混合燃料、CASEなどの新技術に対しては、「新しい技術をかじっておくことは必要ですが、それをお客さまがほしいと思わなければ、それは優れたものではありません。その見極めが今後に生き残るうえで大事になります」と鈴木社長。また、「技術が理解され受け入れられるには、それがデファクトスタンダード(事実上の標準)にならなければ無理で、それに沿っていく必要があります」とも質疑応答の場で述べ、あくまでユーザーのニーズに寄り添った、まさに「By Your Side」な技術・商品開発と市場展開をしていくという慎重な姿勢を崩さなかった。
また、燃費・安全規制の強化などによる車両価格の上昇に対し、中間層以下の収入上昇が追いついてない状況が続き、一方で富裕層の高価格帯シフトも続いており、これは「インドも日本も同じ状況」(鈴木社長)なのだという。今後、インドを中心に開発・生産されたスズキのエントリーモデルを含むコンパクトカーが、次々と日本を含む世界各国に導入され、世界的なヒット作となっていく。そんな未来が想像に難くない。
インド市場で販売されているスズキ車 画像はこちら
だがそのためには、開発・生産能力の拡大はもちろん、自動車運搬船などの海洋物流網やPDI(納車前検査)、ディーラー、整備・修理工場といった、製品を迅速に供給し受け入れていく土台をより一層充実させていくことが、必要不可欠だ。
近年のスズキはヒット作を連発する一方、発表からわずか5日で受注停止となったジムニーノマドをはじめとして長納期化する車種が少なくない。これは決して「By Your Side」とはいえないのではないか。
スズキ・ジムニーノマドのフロントスタイリング 画像はこちら
スズキは前述の「小・少・軽・短・美」に加え、「現場・現物・現実」と「中小企業型経営」を行動理念に掲げている。このうち「中小企業型経営」は意思決定の速さ、人と人との距離の近さ、変化に対応できる柔軟性を持ち続け、企業規模が拡大しても決して大企業病に陥らないよう努めることを目指したものだが、「中小企業型経営」という言葉だけがひとり歩きし、本来の意味から外れ、過剰なまでの謙虚さ、慎重さをスズキ全体に根付かせてしまっているようにも見受けられる。
インドでは圧倒的シェアNo.1、そして日本国内においてもトヨタに次ぐシェア第2位という数字の意味をより正確に認識し、実際の規模が小さいのでなく大きいという意味で、身の丈に合った経営を目指してほしい。それこそがユーザーにとっても「By Your Side」になるのではないだろうか。