最終目的は車検を取ってイベントに活用
■一筋縄ではいかない、平面の板からなめらかな曲面を作り出すプロセス
このジムニーの製作でメンバーがもっとも苦心したのは、サイクルフェンダーやルーフの曲面づくりだったそうです。
イチからなにかを造形する際の方法はいろいろありますが、粘土細工のように骨組みを作ってから肉付けをしていくのが一般的でしょう。カーデザインのプロセスでも、ひと昔前まではクレイという粘土で造形を行っていました。
しかし、アルミパネル造形の第一人者である村手さんの方法はそれとはアプローチが異なります。肉を盛って表面を作っていくのではなく、板を曲げていきなり表面をつくりあげていきます。もちろん、基準になる部分の型紙は作りますが、その周辺の曲面は、スケッチのイメージに近づけるよう、パネルを曲げて空中に面を作っていく作業になります。それも、一気に荒く曲げてしまうと面が汚くなってしまうので、ちょっと曲げては確認し、またちょっと曲げて確認というプロセスを、カタチが決まるまで延々続けていくそうです。さらには、完成した片側を、正確に反転させて逆側を作り上げるのも苦労したそうです。
「クラシック デリバリー TypeA」のフェンダーまわりの造形画像はこちら
これはかなり忍耐力が必要な作業でしょう。不精者の筆者は最後まで続ける自信がありませんが、彼らはそれをやり遂げました。成型プロセスにこだわって仕上げたため、面を修正するパテの使用は最小限に留められています。
■大胆に絞り込まれたエンジンルーム
「フォード・モデルA」のイメージをつくる上で最大のポイントになるのが、前方に大きく絞り込まれたエンジンルームでしょう。容積的に3分の1くらいになっているように見えますが、中身はどうなっているのでしょうか?
ボンネットを開けて中を見ると、本来は左右に余裕をもって装着されているリザーブタンクやヒューズ、エアクリーナーボックスやABSのユニットなどが、ギュッと中央に寄せられ、すき間無く詰まっている様子が見えます。ラジエターを斜めにして少しでもグリルの幅を狭くする工夫が凝らされているのも見どころです。
「クラシック デリバリー TypeA」のエンジンルーム画像はこちら
■塗装も自分たちの手でおこなった
日本工科大学校では、塗装のプロが受ける技能検定を取得した者だけが塗装を行えるというルールを設けているそうで、この車両の塗装もそのルールに則って塗装技能士の資格を取得した生徒が自ら行っています。
注目は深いレッドの部分で、元々下地の色に影響を受けやすく塗るのが難しいとされる赤系のメタリック色にチャレンジしています。ウインドウセクションとルーフを別色にするアイディアも生徒によるものだそうです。
昔風のグラフィックがデザインされた「クラシック デリバリー TypeA」のボディ側面画像はこちら
そして、クラシックな商用車の雰囲気を出すために昔風のグラフィックがあしらわれていますが、それも自分たちでアレンジしたそうです。
■車検取得の費用をクラファンで集める
この車両は展示の役割を終えたあと、学校のイベントや地元の振興などに活用させるという使命が与えられています。そのため、一見ショーのためのつくり込みに思えますが、実際は車検を通してナンバーを取得することを前提に作られています。唯一、サイドミラーだけは可倒式でないとならないので、交換予定とのことです。
そして、その車検の費用もバカにならないため、車両の面倒は最後まで見るというポリシーによって、生徒がクラウドファンディングで資金を調達するそうです。
ブース内でクラウドファンディングの告知をしている様子画像はこちら