この記事をまとめると
■旧車のハンドル径が大きいのは少ない力でもステアリングをまわしやすくするためだ
■パワーステアリングのない旧車で右左折や転回するときは向かうほうへハンドルを切っておくのが運転のコツだった
■横へのたわみが大きいバイアスタイヤではハンドル径が大きいほうが直進安定性を保ちやすい
車体のサイズに比べて大径な旧車のハンドル
旧車の人気が世代を超えて高まっている。ことにコロナ禍以降は、値上がりもしているという。改めて、旧車に興味を覚えた読者もあるのではないか。
そうした旧車で目に付くのは、運転席に座ったときのハンドル径の大きさだろう。たぶん直径は40cmか、それ以上あるかもしれない。一方で、今日のクルマのハンドルは36cm前後と、かなり小径だ。
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古いクルマのハンドルの径が大きい理由は、そのほうが少ない力でまわしやすいからである。
操舵力を補助するパワーステアリングが乗用車で使われるようになったのは、1950年代のアメリカ車からだ。最初はクライスラーで、次いでキャデラックに採用されたという。パワーステアリングの発明は1920年代であるとか、発想自体はガソリンエンジン車が生まれる前からあったなど、諸説ある。しかし、乗用車で実用化され、人々の目に触れるようになったのは、第二次世界大戦後ということになる。
パワーステアリングを初搭載したクライスラー・インペリアル(6代目)画像はこちら
それでも、大柄なアメリカ車の一部や、前輪駆動を採用していたフランスのシトロエンなど、採用される数は限られていた。
パワーステアリングが装備されない時代のハンドルの径が大きかったのは、ハンドルをまわしやすくするためだ。理由は、モーメントという物理の法則による。
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レバーを引く際、根元に近いところでは大きな力が必要であったり引けなかったりしても、レバーの先のほうを持って押せば容易にまわせるといった経験があるだろう。
つまり、回転の中心より遠いところでまわすほうが、小さな力で操作できるのである。回転力は、力と腕の長さの掛け算で得られる。力が小さくても、腕の長さが長ければ、回転力は大きくなる。
それでも、停車した状態でハンドルをまわすのは難しく、右左折や転回(Uターンなど)をするときは、クルマがゆっくり動いて(タイヤが回転して)いるうちに、向かうほうへハンドルを切りはじめておくのが、運転のコツだった。パワーステアリングが当たり前の、いまの据え切りのようなハンドル操作は、昔はほぼ無理だった。
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そのハンドルの直径が40cmか、それ以上であった理由は、人の肩幅が60cm前後で、そのまま腕を伸ばしてハンドルを握ると40cmほどの直径であると自然に握りやすいからだ。そして、脇が適度に締まり、まっすぐ走行するときの安定性も高まる。
パワーステアリングの採用が少ない時代のタイヤは、バイアスタイヤといって、横へのたわみが現代のラジアルタイヤより多く、直進安定性が劣っていた。したがって、脇をしめ、腕を落ち着かせてハンドルを握れることが、クルマをまっすぐ走らせるうえで都合よかった。
バイアスタイヤを履いている日産フェアレディZ(S30)画像はこちら
ハンドルを小さな力でまわしやすいこと、まっすぐ走るときの走行安定性を保ちやすいこと、そのふたつを背景に、パワーステアリングが普及していなかった時代のクルマは、ハンドルの直径が大きいのである。