フランス車でよく使われる「ZEN」は「禅」だった! 本来の意味とはちょっと違うフランス独自の使われ方とは? (2/2ページ)

フランス人にとって必要な単語に

 フランス式のいい趣味というと、その昔でいう「BCBG(bon chic, bon genreの略)」の通り、社会的にほどほどハイソ志向で品よく見えるものが好まれやすく、それが自然な雰囲気で本人に溶け込んでいればなおさらよし、だった。

 ただ、部屋でも服でも、素材やら柄やら色やらが極度に洗練され過ぎていくと、ゴテゴテと要素も増えがちで、ノンシャランと似合っているのは難しい。それでいて、スッキリしたスタイルというのはビンボー臭いか、ナイーブ過ぎるのと紙一重でもあった。

 逆に、携帯電話や生命保険のような月々の支払い商品でも、条件面でごちゃごちゃしない安心パッケージ的なものが「formule zen」として売られていたりもする。修道院暮らしのような清貧さではなく、静寂や安堵を伴いつつシンプルで質の高い暮らし方として、フランス人にはエキゾチックなZENはちょうどよく映るのだ。

 ちなみに上っ面だけ、簡素でオリエンタルなものを、何でもZENといいがちなフランス的視点も当然ある。弁当やおにぎり、8貫全部サーモンの鮨ランチをゼンだとかいったり、暖炉にハリボテの仏像を置きがちなタイプは流石にキツい。一方で、悟りを開いちゃったからこそ少ない要素で足ることを知るという、メンタル上の充足感がZENには伴うことを意外と知っているフランス人も少なくない。

 クルマの内装インテリアにも、そのまま当てはまることがわかるだろう。昨今のシトロエンの内装はë-C3やë-C4さらにはC5 Xなど、水平基調のダッシュボードで素材感や色合いの優しいコントラストは大事にしつつ、広々した寛ぎ感を重視している。

 煩雑でなしに、エッセンシャルにまとまったものを美しいと感じる感性は、フランスではむしろ根強く、「シンプル」や「ピュア」といった概念はあるにもかかわらず、要素少なめの美しさと快適さをセットにしてポジティブに定義する「便利なひと言」というのが見当たらなかった。この空白を見事に埋め合わせてくれる言葉あるいはスタイル(=様式)が、ZENだったという訳だ。

 いわばZENは、フランスではスタイルのある暮らしための積極的引き算のように、だからこそクールなものとして受け止められている節がある。

 ラーメンのトッピングも軽自動車の便利装備も、全部のせがベスト・プラクティクスになった日本でいえば、断捨離を楽しむ感覚と遠からぬところにあるはずだ。


南陽一浩 NANYO KAZUHIRO

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