FD2より若干ソフトだが訴求力に欠ける内容で中古相場は低め
では、その走りはどうだったのか。ひとまず仕様をFD2型シビックタイプRと比較してみると、FD2の全長×全幅×全高=4540×1770×1430mm・ホイールベース2700mmに対し、FN2は同4270×1785×1445mm・2635mmと、270mm短く15mm広く15mm高く65mm短い。旋回性能の面では有利と思われ、かつ見た目のうえでも塊感がありスポーティに感じられるものだった。
ホンダ・シビックタイプRユーロのサイドビュー画像はこちら
一方で、ハイチューン仕様のK20A型2リッター直列4気筒DOHC「i-VTEC」エンジンは、圧縮比のダウン(11.7→11.0)、実用トルクを重視した吸気マニホールドへの変更、2次バランサーシャフト採用による騒音・振動の低減など、欧州のユーザー向けにやや快適性を重視したチューニングに。結果として最高出力と最大トルクは、FD2の225馬力/8000rpm&215Nm/6100rpmに対し、FN2は201馬力/7800rpm&193Nm/5600rpmへとダウンしている。
ホンダ・シビックタイプRユーロのK20Aエンジン画像はこちら
また、プラットフォーム自体が異なるため、サスペンションの基本設計も異なっており、FD2のフロント・ストラット式、リヤ・ダブルウイッシュボーン式に対し、FN2はフロントはストラット式、リヤがトーションビーム式。ただしFN2はザックス製ダンパーを採用したことを公表していた。
タイヤはともに225/40R18サイズのブリヂストン・ポテンザながら、FD2はドライグリップを最重視したRE070、FN2はトータルバランスの高さで定評のあるRE050Aを選択。ブレーキはFD2がDC5型インテグラタイプRに続いてフロントにブレンボ製対向4ポットキャリパー、FN2もその前身といえる7代目EP3型シビックタイプRと同様に片持ちタイプのキャリパーと、こちらも方向性が明確にわかれている。
そして車重は、FD2の1270kgに対しFN2は50kg重い1320kg。FD2に対しFN2はわかりやすいスペックや装備の面で、やや見劣りするものになってしまっていたのは事実だ。
ホンダ・シビックタイプRユーロの走り画像はこちら
ではその代わり、FN2は街乗りでも快適で扱いやすいクルマになっていたかといえば、そうとはいい切れないのが悩ましいところだ。確かにK20A型エンジンは、FD2用でさえ低回転域でも扱いやすい万能性のもち主だが、FN2のK20Aはよりいっそう扱いやすくなっており、振動・騒音もその官能的なホンダミュージックを損なわない範囲内で低減されていた。
しかし、肝心の乗り心地は「あくまでFD2よりはマシ」というのが筆者の率直な印象だ。
ホイールベースの短さやサスペンション形式、ボディ形式の違いは確実に不利に働いており、結果として路面の凹凸をすべて忠実に拾い、とくに車体のリヤ側を常に上下動させる傾向はまったく変わらず。乗員の視線をぶれさせ眼精疲労や車酔いを誘発し、首や腰にも多大な負荷をかけ続け、頸椎と腰椎の椎間板ヘルニアを悪化させるという点では、何ら違いはない。
ただ、その突き上げの強さ、跳ねの大きさが、FD2よりは若干抑えられている。また、ウエット路ではFD2よりハイドロプレーニングの心配が少ない。それだけの話である。
ホンダ・シビックタイプRユーロの走り画像はこちら
以上のとおり、タイプRファンが求めるピュアスポーツ度ではFD2より若干落ちるFN2ではあるが、ではなぜ中古車相場が100万円近く安いのか。なお、ここからはあくまで、筆者の推測となることをご容赦いただきたい。
まず、FD2が4ドアセダンなのに対し、FN2は3ドアハッチバック。後席はどうしても狭くなり、乗り降りも不便になる。家族をなんとか騙……説得してスポーツカーを購入したいクルマ好きにとって、これは致命的だ。そもそもどちらも乗り心地は劣悪なので、それを家族が体感すれば、早晩買い換えを求められるは必定なのだが。
ホンダ・シビックタイプRユーロのリヤシート画像はこちら
そして、オーディオ。FD2は2DINサイズの取り付け穴が開いたオーディオレス仕様が標準なのに対し、FN2は専用形状のAM/FMチューナー付きCDプレイヤーが標準装備だった。
なお、ディーラーオプションでホンダアクセス製の純正ナビと専用のパネルが用意されていたが、これを装着している個体でも、純正ナビを取り外して市販の2DINナビに交換することは、ステアリングスイッチやサブディスプレイ、バックカメラとの連携を含め、決して容易ではない。
ホンダ・シビックタイプRユーロのインテリア画像はこちら
そのうえ、標準装備のAM/FMチューナー付きCDプレイヤーを装着する車両が圧倒的多数のため、オーディオユニット選択の自由度は限りなく低いのが実情だ。
しかし、ありがたいことに、USB Type-A端子とAUX(オーディオ外部入力)端子は標準装備されている。そのいずれかにポータブルオーディオやスマートフォンを接続し使用できれば、はるかに使い勝手はいいだろうが……。
そのほか、センタータンクレイアウトを採用する車種共通の傾向として、前席のヒップポイントがFN2は高めになっている。スポーツカーらしい低めのドライビングポジションが好みならば、FD2のほうが適しているだろう。
ホンダ・シビックタイプRユーロのインテリア画像はこちら
これらの特徴を許容できるのであれば、より安価なFN2を選択するのはむしろ賢明といえよう。タイプR各車に共通するレーシーな走り、またFN2だけの前衛的な内外装デザインを味わえるのは、間違いないのだから。