日産だけでなくホンダだって安泰とは限らない
自動車メーカーの商品計画は外部から伺い知れない情報であるが、もし日産の経営陣が開発途中のモデル情報から「もうすぐ大ヒット商品が出る」と確信しているのであれば、生産能力20%削減や9000名の首切りといったリストラ策を発表する必然はないわけで、おそらく大逆転を期待できる状況ではないのだろう。
つまり、売れるニューモデルの投入ができるかどうかは未知数であり、そこに賭けるのはギャンブルと判断したのだろう。だからこそ、ホンダと経営統合について検討するというテーブルについたのだといえる。
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では、直近で生産台数が前年同期比で約2割減、売れる商品を作れない日産が生き残るためにやるべきことはなんだろうか。単独での生き残りを図るのであれば、工場や人員のリストラによって固定費を大きく減らしつつ、同時に売れる商品を開発するという愚直な企業経営をしていくしかないだろう。
もうひとつのシナリオは、経営統合をするにふさわしい新しいパートナー企業を見つけることだ。ただし、日産のプライドを守ってくれるようなパートナーが簡単に見つかるとは思えない。投資ファンドが日産の再生に名乗りを上げる可能性もあるが、それで明るい未来が描けるとはいいがたい。
最近でいえば、日本を代表する企業だった東芝は、ファンドのもとで「売れる事業部」から切り売りされ、実質的に解体され、上場廃止となった。日産に売れる事業部が存在するかの疑問もあるが、EVのグローバル展開を考えているメーカーのなかには日産の工場(生産設備や熟練工など)を買いたいという企業もありそうだ。
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とくにトランプ政権でのアメリカファースト政策に対応するには、スピーディに北米の生産拠点を整備する必要がある。そうしたニーズが高まっていけば、日産の北米工場を高く売り抜けることも期待できそうだ。
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さらにスケールを大きくすると、ほしい工場や人員を手に入れるために日産を買収しようとする企業が出てくるシナリオも考えられる。それでも不要な部署や設備まで維持するとは考えられないので、いずれにしても現状からすると解体されたように見えるだろう。
さて、破談となったもう一方のホンダについても明るい未来を描くのは難しい。
そもそも日産との経営統合は、BEVがメインとなる時代におけるモーターやバッテリーの調達力アップやSDV(ソフトウェアによってアップデートできるクルマ)開発に必要な規模感を求めてのことだった。
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経営統合は破談となっても、当該分野における日産との協業関係を維持することは重要であろう。今回の破談においてホンダが単独でBEVやSDVの対応をしていくことになるかもしれないが、販売規模からするとホンダ単独で開発をするのはハードルが高いというのが現時点での見立てとなる。
しかしながら、SDVについていえば、その肝となる車載OSについて個社が開発するというビジネスモデルが正解かどうかはわからない。コネクテッド時代には、車載OSを押さえることが利益の源泉になると自動車メーカーは考えているだろうが、パソコンでもスマホでもアップル以外は、ハードウェアメーカーがOSを作っているケースがほとんどない(OSの開発サイドがハードウェアを作るケースはある)ことを考えると、自動車においても独自OSが必須になるとは限らない。すでにサプライヤーにおいては、自動車メーカーへ供給できるよう独自の車載OSを開発しているケースもある。
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SDVの根っことなる車載OSを他社に抑えられてしまったら自動車メーカーの利益率は下がってしまうので経営者視点では認めがたいかもしれないが、ソフトウェアによる進化スピードや機能のプラスといった点を考えると、車載OSの共通化はユーザーメリットにつながるはずだ。
話が逸れてしまったが、SDVに対応した車載OSが、自動車メーカー以外から提供されるという時代になれば、スケールを追いかけなくとも個性的なブランドがそのままに生き残っていけるという時代になるかもしれない。そうなればホンダも日産も単独で存在できるだろうし、他の国産メーカーも個性を残したまま存続できるといった未来像も描けそうだ。